平成22年7月27日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成17年(ワ)第21650号損害賠償請求事件(以下「第1事件」という。)
平成17年(ワ)第21651号求償金請求事件(以下「第2事件」という。)
平成17年(ワ)第21758号損害賠償請求事件(以下「第3事件」という。)
平成19年(ワ)第27594号損害賠償請求事件(以下「第4事件」という。)
平成20年(ワ)第2778号損害賠償請求事件(以下「第5事件」という。)
口頭弁論終結日 平成21年12月22日
判 決
当事者の表示 別紙「原告目録」、「原告代理人目録」及び「被告等目録」に記載のとおり
主 文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)
は原告らの負担とする。
事 実 及 び 理 由
第1 請求
別紙「請求目録」に記載のとおり
第2 事案の概要
1 地中海上を航行中のコンテナ船の船倉内において高熱の発生及び発煙を伴う事故(以下「本件事故」という。)が発生し、更にこれに対応するため船倉内への散水、注水、海水の貯留等の措置がとられた結果、コンテナ船の船体や積荷に破損や水濡れといった損害が発生した。本件は、コンテナ船の裸傭船者、貨物の荷送人又は荷受人との間で貨物海上保険契約を締結していた損害保険会社である原告らが、被告が荷送人となっていた貨物が危険物であったにもかかわらず、被告が危険物の荷送入として義務付けられていた貨物が危険物である旨の表示義務等の注意義務を怠った結果、同貨物が積載されたコンテナが船倉内の熱源に近い場所に積み付けられ、発熱反応を起こして本件事故に至ったとして、被告に対し、不法行為による損害賠償請求権(保険代位又は債権譲渡によって取得したものを含む。)に基づいて、損害賠償(主位的請求は損害を外貨建てで、予備的請求は損害を円建てでそれぞれ算定したもの)の支払を求めた訴訟である。
2 前提となる事実(証拠等を掲記したもの以外は当事者間に争いがない。)
(1)ア 原告エヌワイケー・アルグス・コーポレーション(以下「原告NYK」という。)は、日本郵船株式会社(以下「日本郵船」という。)の関連会社である。
イ 原告三井住友海上火災保険株式会社(以下「原告三井住友海上」という。)、原告富士火災海上保険株式会社(以下「原告富士火災」という。)、原告東京海上日動火災保険株式会社(当時の商号は、東京海上火災保険株式会社。同社は、平成16年10月1日、日動火災海上保険株式会社と合併して商号変更した。以下「原告東京海上日動」という。)、原告あいおい損害保険株式会社(以下「原告あいおい損保」という。)、原告株式会社損害保険ジャパン(以下「原告損保ジャパン」という。)、原告ニッセイ同和損害保険株式会社(以下「原告ニツセイ同和」という。)及び原告日本興亜損害保険株式会社(以下「原告日本興亜損保」という。)は、いずれも貨物海上保険を含む各種損害保険の引受けを業とする株式会社であり、原告ソンポ・ジャパン・インシュアラソス・カンパニー・オブ・ヨーロッパ・リミテッド(以下「原告ソンポ・ジャパン・ヨーロッパ」という。)、原告フォーティス・コーポレート・インシュアランス・エヌ・ブイ(以下「原告フォーティス」という。)、原告エイゴン・シャーデフェルゼーケリング・エヌ・ブイ(以下「原告エイゴン」という。)、原告トーキョー・マリン・ヨーロッパ・インシュアランス・リミテッド(以下「原告トーキョー・マリン・ヨーロッパ」という。)、原告バロワー・インシュアランス・カンパニー・リミテッド(以下「原告バロワー」という。)、原告アクサ・コーポレート・ソリューションズ・ニーダーラッサンク・ドイッチェラント・デア・アクサ・コーポレート・ソリューションズ・アシュアランス(以下「原告アクサ」という。)、原告マンハイマー・フェアズイッヒルングズ・エイジー(以下「原告マンハイマー」という。)、原告クラバグーアルゲマイネ・フェアズィッヒルングズ・エイジー(以下「原告クラバグーアルゲマイネ」という。)、原告ビクトリア・フェアズィッヒルングズ・エイジー(以下「原告ビクトリア」という。)、原告エイチディーアイーゲーリング・インドゥストゥリー・フェアズィッヒルングズ・エイジー(以下「原告エイチディーアイーゲーリング」という。)、原告コンドア・トランスポートーアンド・ルック・フェアズィッヒルングズ・エイジー(以下「原告コンドア」という。)及び原告レーンスフォルセークリンガー・サック・フォルセークリングサックティボラグ(以下「原告レーンスフォルセークリンガー」という。)は、損害保険業等を業とする外国会社である。
ウ 原告ゼロックス・リミテッド(以下「原告ゼロックス」という。)は、電送機器及び関連諸製品の製造、販売等を業とする外国会社であり、原告ヤマザキ・マザック・ユーケー・リミテッド(以下「原告ヤマザキ」という。)は、金属製機械の製造等を業とする外国会社である。工被告は、平成17年3月24日当時、商業登記簿上の目的として、化学製品及びこれを材料とする製品、医薬品及び医薬部外品並びに化学製品等の輸出、輸入及び販売を掲げていた商社である(甲イ6)。
オ 被告補助参加人ダイトーケミックス株式会社(以下「補助参加人ダイトー」という。)は、「NAー125」という名称の商品(化学名「2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸ナトリウム」、分子式「C10H6N2O4S.Na.H2O」)及び「PSRー80」という名称の商品(化学名「アセトンとピロガロールの縮合物の1、2ーナフトキノンー(2)ージアジドー5ースルホン酸エステル」、分子式「C10H6N2O4.x(C6H6O3.C3H6O)x)。」)の製造者である(丙ロ13、14〔枝番を含む〕)。
(2) 別紙「本船の概要」記載の船舶エヌワイケー・アルグス号(以下「本船」という。)は、パボ・ライン・シッピング・エス・エイが所有するコンテナ船である。平成16年当時、同社からグロリアス・リバー・ライン・エス・エイが、同社から原告NYKが、原告NYKから日本郵船が、順次本船を傭船した上、日本郵船が本船をアジア欧州間の定期航路に配船していた。
(3) 被告は、平成16年9月、被告補助参加人パンテナー・リミテッド(以下「補助参加人パンテナー」という。)を代理した被告補助参加人パナルピナ・ワールド・トランスポート・ジヤパン株式会社(以下「補助参加人パナルピナ」という。)との間で、被告を荷送人、補助参加人パンテナーを運送人として、補助参加人ダイトーから購入した次の各貨物(以下「本件各貨物」という。)を神戸からロッテルダムまで運送する旨の契約を締結した。
ア NA-125 50Kg入りファイバードラム缶10O個
イ PSRー80 10Kg入りカートン40個
(4) 補助参加人パンテナーを代理した補助参加人パナルピナは、デイー・エム・コンソ一ル・ライン(以下「ダムコ」という。)との間で、本件各貨物の運送契約を締結し、ダムコは、更にピー・アンド・オー・ネドロイド社(以下「ピー・アンド・オー」という。)との間で、本件各貨物の運送契約を締結した。そして、ダムコの代理店東海運株式会社(以下「東海運」という。)の下請会社である川西倉庫株式会社(以下「川西倉庫」という。)は、ピー・アンド・オー所有のコンテナ(コンテナ番号OCLU0949259。以下「本件コンテナ」という。)に他の貨物とともに本件各貨物を積載した(以下、原告NYK、補助参加人パンテナー、補助参加人パナルピナ、ピー・アンド・オー、日本郵船等本船の運航に関わる者を総称して「本船側」という。)。
(5) 本件各貨物に危険物であることを示す標識等は付されておらず、本船側は、本件各貨物を非危険物の一般貨物として扱い、本件コンテナを別紙「本船の概要」記載9のとおり、本船の第3船倉の第23区画・第8列・第2層(23・08・02)に積み付けたが、本件コンテナの下部及び左側部は、約10ないし15cmの空隙(空気層)を隔てて本船の左舷第3燃料油タンクに面する状態となっていた(甲イ3、甲ハ8)。
(6) 本船は、平成16年9月28日、神戸を出港し、その後、名古屋、東京、清水に寄港し、更にシンガポールに寄港した上で、同年10月8日、シンガポールからサザンプトン(英国)へ向けて出港し、同月17日には、スエズ運河を通過して地中海を航行していた。なお、同日午後5時から、本件コン、テナに面する本船左舷第3燃料油タンクの燃料油について、その流動性を確保するため、加熱が開始された。本船が同月19日午後11時55分頃(現地時間。以下同じ。)、北緯38度、東経6度39分3秒付近を航行中、第3船倉の煙探知機が警報音を発した。本船の船員らは、第3船倉内からの煙の発生及びその付近の温度上昇を確認したことから、第3船倉を密閉状態にして、第3船倉に二酸化炭素を放出し、また、海水スプリンクラーを作動させて第3船倉内に海水を散水するなどして、これに対応したところ(以下「本件鎮圧活動」という。)、同月20日午前11時ころ、煙が認められなくなり、温度も低下したことから事態の鎮静を確認した。
(7) 本船は、同月24日にサザンプトンに寄港し、同月28日にロッテルダムに到着した。その際、積荷の荷揚げが行われるとともに、同月29日午後3時に第3船倉のハッチが開口されて本件事故の発生原因の調査が行われた(甲ハ9)。
3 争点
(1)本件各貨物の危険物該当性(争点1)
(2)本件事故の原因(争点2)
(3)失火の責任に関する法律(明治32年法律第40号。以下「失火責任法」という。)の適用の有無(争点3)
(4)被告の過失又は重過失の有無(争点4)
(5)損害の有無及び額(争点5)
(6)損益相殺−共同海損分担金請求権の有無(争点6)
(7)消滅時効の成否1(争点7)
(8)消滅時効の成否2(争点8)
4 争点に対する当事者の主張
(1)争点1(本件各貨物の危険物該当性)
(原告らの主張)
ア 本件事故発生当時、危険物の海上運送に関して我が国において施行されていた法規は、次のとおりであった。
(ア)船舶安全法(昭和8年法律第11号)28条(危険物の運送等に関する技術的基準は、国土交通省令をもって定める旨規定している。)
(イ)船舶安全法28条の委任に基づく危険物船舶運送及び貯蔵規則(平成16年国土交通省令第51号による改正後のもの。以下「危規則」という。)
危規則2条1号は、危険物の定義規定を置いており、同号二で可燃性物質類が危険物とされ、可燃性物質類は、可燃性物質(火気等により容易に点火され、かっ、燃焼しやすい物質で、告示で定めるものをいう。同号二(1))、自然発火性物質(自然発熱又は自然発火しやすい物質で、告示で定めるものをいう。同号二(2))及び水反応可燃性物質(水と作用して引火性ガスを発生する物質で、告示で定めるものをいう。同号二(3))の3個のものとされている。
(ウ)危規則2条1号二(1)、3条1項4号、2項等の委任に基づく船舶による危険物の運送基準等を定める告示(平成15年国土交通省告示第1616号による改正後のもの。以下「危告示」という。)
そして、これらの法規の内容は、我が国が加盟している「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)附属書第VII章の内容及びその下で国連の協力により定められた国際海上危険物規程(IMDGコード)と実質的に同内容となっている。なお、危険物は、危険性の種類及びその成分により国連番号及び正式品名が定まる。
さらに、船舶安全法27条は、「船舶ノ堪航性及人命ノ安全二関シ条約二別段ノ規定アルトキハ其ノ規定二従フ」と規定しており、ここにいう条約には、SOLAS条約も含まれ、同条約は、第7章A部第3規則において、危険物の運送についてIMDGコードに従わなければならないと明記しているから、危険物の運送については、危規則又は危告示に規定がない場合でもあってもIMD6コードに規定がある場合には、これに従わなければならない。
イ NAー125
(ア)自己反応性物質該当性
危告示3条1項2号、別表第1に掲げられた危険物「国連番号3226=自己反応性物質D(固体)」について、同別表第1備考1(2)は、化学名として「2ージアゾー1−ナフトールー5−スルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%のもの)」を挙げている(なお、自己反応性物質とは、熱的に不安定で、酸素ないし空気の供給がない場合であっても強烈に自己分解反応を起こしやすい物質をいう(甲ロ6)。以下同じ。)。
NAー125の主な成分は、2ージアゾー1−ナフトールー5ースルホン酸ナトリウムであり、水分等の不純物を含むものの、これまで2ージアゾー1−ナフトールー5ースルホン酸ナトリウムについて書かれた文献では国連番号3226:自己反応性物質D(固体)に分類され(甲ハ8添付物U14項、甲イ14ないし21、48及び49)、補助参加人ダイトーも平成15年12月以前及び本件事故後はNAー125を危険物として取り扱ってきた。
したがって、NA-125は、国連番号3226:自己反応性物質D(固体)である化学名「2ージアゾー1−ナフトールー5ースルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%のもの)」又は「その他の化学名」に該当するのであり、可燃性物質類のうち可燃性物質に該当する。この点、「濃度が100質量%」とは、工業的純品(technically pure substance)を意味するところ、NAー125に占める危険物の濃度は90%を超え、数%程度の水分を含むからといって危険性が除去されるとはいえないから、工業的純品に当たる。
なお、「物質の危険性評価の試験方法及び判定基準」(平成14年8月21日国海査第263号の3による改正後のもの。以下同じ。甲ロ7)は、自己加速分解温度(物質が自己加速分解を起こすおそれのある最低温度のこと。以下同じ。)が摂氏75度を超える物質について、自己反応性物質と判定しないこととしており、被告は、NAー125の自己加速分解温度を摂氏80度であるとしているが、自己加速分解温度は、ロットごと又は製品ごとに異なり得るのであるから、本件事故で消失したNAー125そのものの自己加速分解温度が摂氏80度であったとは限らない。
(イ)自己発火性物質該当性
株式会社カヤテック(以下「カヤテック」という。)は、平成17年12月14日付け「危険物輸送に関する国連勧告の試験及び化学物質の危険性評価試験結果報告書」(丙ロ17)において、NA-125について、「自己発熱性物質に該当する。」と判定しているところ、自己発熱性物質とは、自然発火性物質(少量であっても空気と接して5分以内に発火する物質(液体又は固体の混合物及び溶液を含む)をいう。以下同じ。)以外の物質であって、空気と接した場合にエネルギーの供給なしに自己発熱しやすい物質をいう(甲ロ6)。危告示別表第1において、危険物「国連番号3088:自己発熱性物質」は、可燃性物質類の自然発火性物質とされている。
したがって、NAー125は、可燃性物質類の自然発火性物質にも該当する。
ウ PSR-80
(ア)自己反応性物質該当性
危告示3条1項2号、別表第1に掲げられた危険物「国連番号3226:自己反応性物質D(固体)」について、同別表1備考1(2)は、化学名として「2ージュゾー1ーナフトールー5−スルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」及び「2ージアゾー1ーナフトールースルホン酸エステルD(濃度が100質量%未満のもの)」を挙げている。
PSR-80は、アセトンとピロガロールの縮合物の1、2ーナフトキノンー(2)一ジアジドー5ースルホン酸エステル(Ester compound
of 1, 2 - Naphthoquinone - (2) - diazido - 5 - sulfonic acid with Pyrogallol-acetone
condensation)を含んでおり、国連番号3226:自己反応性物質である化学名「2ージアゾー1−ナフトールー5−スルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」若しくは化学名「2ージアゾー1−ナフトールースルホン酸エステルD(濃度が100質量%未満のもの)」又は「その他の化学名」に該当する。この点、「濃度が100質量%」の意義にっいては、上記イ(ア)で述べたところと同じである。
PSRー80が、仮に上記のいずれにも該当しないとしても、国連番号3222:自己反応性物質B(個体)、国連番号3224:自己反応性物質C(固体)、国連番号3228:自己反応性物質E(固体)又は国連番号3230:自己反応性物質F(固体)のいずれかには該当する。また、日本政府は、平成16年5月25日、PSR-80と化学式が同一であるCAS番号68584-99-6の物質につき、自己加速分解温度摂氏65度、可燃性物質の自己反応性物質4.1等級、国連番号3228:自己反応性物質Eとして申請し、認められた。国連番号3228:自己反応性物質Eは、危告示別表第1において、可燃性物質類の可燃性物質とされている(甲ハ8、33)。
ところで、物質の危険性評価の試験方法及び判定基準は、自己加速分解温度が摂氏75度を超える物質について、自己反応性物質から除外しているが、PSRー80の自己加速分解温度は摂氏70度であるので、上記除外事由には合致しない(甲ロ7、丙ロ3ないし5)。
したがって、PSR-80は、自己反応性物質に該当する。
(イ)自己発火性物質該当性
社団法人日本海事検定協会(以下「日本海事檎定協会」という。)作成に係る平成17年3月30日付け危険性評価証明書(丙ロ16)は、PSR-80ついて、「"自己発熱性物質、容器等級U"に"該当する"と判定する。」と記載している。危告示別表第1によると、自己発熱性物質は、国連番号3088の危険物とされ、可燃性物質類のうち自然発火性物質とされている。したがって、PSRー80は、可燃性物質類のうち自然発火性物質にも該当する。
エ なお、補助参加人ダイトーは、自己発熱性試験の設定温度が摂氏100度、120度及び140度であることから、船倉内の温度が摂氏10O度、120度又は140度に達しなければ自己発熱の反応を開始しないと主張するが、自己発熱性試験の設定温度は、当該物質が自己発熱性物質としての性質を有するか否かを判断することを目的として、短時間で少量のサンプルによる試験のために指定されたものにすぎず、船倉内の温度が摂氏100度、120度又は140度に達しなければ自己発熱の反応を開始しないというものではない。
(被告の主張)
ア 船舶安全法27条が条約の規定に従わなければならないとする対象は、船舶の堪航性及び人命の安全に関する事項であり、危険物の運送に関する基準を定めたIMDGコードに従うことまでは要求していない。
イ NAー125
(ア)自己反応性物質
物質の危険性評価の試験方法及び判定基準は、自己加速分解温度が摂氏75度を超える物質について、自己反応性物質と判定しないこととしているところ、NAー125は、自己加速分解温度が摂氏80度であり(丙ロ6)、摂氏75度を超えるため自己反応性物質には該当せず、危規則及び危告示の定める危険物には当たらない。
仮に、自己加速分解温度が摂氏75度を超える物質が自己反応性物質に当たり得るとしても、「濃度が100質量%のもの」ではない場合は危規則及び危告示が定める危険物には当たらない。危規則にも危告示にも、危告示別表の「濃度が100質量%のもの」が工業的純品(technically pure substance)を指すとの記載はなく、多少の純度に欠けるものも該当するとの記載もないのであるから、「濃度が100質量%のもの」とは、不純物を含まないものを指すと解すべきである。しかし、本件コンテナに積載された5000KgのNAー125の濃度は、多くとも92.1%であり、少なくとも7.9%(395Kg)もの不純物及び水分が含まれていた。そうすると、NAー125は、「濃度が100質量%のもの」に該当しない。
仮に原告らの主張のとおり「濃度が100質量%のもの」が工業的純品をいうとしても、補助参加人ダイトーが製造しているNAー125が含んでいる水分は少量とはいえないので、NAー125は危規則及び危告示にある化学物質の工業的純品とはいえない。
なお、危告示別表「その他の化学名」とは、同別表に列挙された化学名以外の化学名を意味していると解されるから、同別表に列挙された化学名で、濃度が異なるものは、これに含まれない。
(イ)自己発熱性物質
補助参加人ダイトーは、被告に対して、本件事故前、NA-125は危険物ではないという情報を提供していた。したがって、NA-125は、本船に本件コンテナが船積みされた時点において、自己発熱性物質を含め、危険物に該当していなかった。
ウ PSRー80
(ア)自己反応性物質
PSR-80は、アセトンとピロガロールの縮合物の1、2ーナフトキノンー(2)−ジアジドー5ースルホン酸エステルと水分及び溶媒とを含有した物質であり、本件コンテナに積載された400KgのPSR-80は、少なくとも1.0ないし1.2%(4.0ないし4.8Kg)の水分を含み、合計3.0%以下(12Kg以下)の不純物を含んでいて、濃度は100質量%でないから、国連番号3226:自己反応性物質D(固体)の化学名「2ージアゾー1一ナフトールー5ースルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」には該当しない。
また、PSR-80と化学式が同一であるとされるCAS番号68584ー99ー6の物質は、平成17年1月25日付け国連文書において、国連番号3228:自己反応性物質Eの危険物に指定されているから、PSR-80は、国連番号3226:自己反応性物質D(固体)の化学名「2ージアゾー1−ナフトールスルホン酸エステルD(濃度が100質量%未満のもの)」に該当しない。
さらに、単に「2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」と濃度が違うだけの物質であるPSR-80は、国連番号3226:自己反応性物質D(固体)の「その他の化学名」には該当しない。
しかも、PSRー80は、国連番号3228:自己反応性物質E(固体)の「その他の化学名」にも該当しない。確かに、平成16年9月ころの危告示別表第1備考1(2)の「自己反応性物質の化学名等」の表の中には、平成18年12月5日付け危告示改正により国連番号3228:自己反応性物質E(固体)の化学名として追加された「アセトンーピロガロールコポリマー2ージアゾー1ーナフトールー5ースルポネート(濃度が100質量%のものに限る)」という記載はなかったので、本件事故当時、国連番号3228:自己反応性物質E(固体)の「その他の化学名」に含まれていたとも考えられる。しかしながら、補助参加人ダイトーが製造販売するPSRー80は、濃度が100質量%ではないので、「アセトンーピロガロールコポリマー2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホネート(濃度が100質量%のものに限る)」に該当せず、したがってまた、「その他の化学名」にも該当しない。
(イ)自己発熱性物質
補助参加人ダイト−は、被告に対して、本件事故事故前にPSRー80は危険物ではないという情報を提供していた。したがって、PSR-80は、本船に本件コンテナが船積みされた時点において、自己発熱性物質を含め、危険物に該当していなかった。
(補助参加人ダイトーの主張)
ア NA-125は、50Kgの輸送物における自己加速分解温度が摂氏80度であり、摂氏75度を超えることから、自己反応性物質に該当しない。
また、NAー125は、6ないし7%の水分を含んでいるごとから、危告示において国連番号3226:自己反応性物質D(固体)の化学名「2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%のもの)」に該当しない。さらに、NA-125は、自己反応性物質に当たらない以上、「その他の化学名」にも該当しない。
イ(ア) PSR-80は、危告示別表第1備考1において表示されている危険物に該当しない。PSRー80は、エステル化合物と水分及び溶媒とを含有している商品であるので、危告示で指定されている「濃度が100質量%のもの」には該当しない。
また、PSRー80は、消防法上の危険物に該当せず、平成14年2月ころから始まった営業べ一スでの海上輸送が24回を数え、本件事故時と同様の手順で補助参加人ダイトーから被告に販売された後に、被告により海上輸送をされてきたにもかかわらず、火災のみならず、何ら品質クレームも受けていなかった(なお、PSR-80は、一定期間一定の高温下に置かれた揚合、火災の原因とはならないが品質の劣化が起こる。さらに一定の温度を超えた状態で一定時間置かれた揚合に、自己加速分解反応を起こし火災の原因となることもある。)。
したがって、PSR-80は、国連番号3226:自己反応性物質Dとして危告示別表第1備考1に示されている危険物には該当しない。
(イ)もっとも、補助参加人ダイトーは、本件事故が発生したことを受けて、PSR-80を自己反応性物質として取り扱うこととした。しかし、この取扱いは、飽くまでPSRー80についての社内的な取扱いとして、国連番号3226又は3228に相当するものとして取り扱うこととしたにすぎず、PSRー80が危告示別表1備考1に記載されている危険物に該当することを理由とするものではない。
(ウ)原告らは、ジアゾ化合物であれば、原則として自己反応性物質としての危険性を有することは一般に知られているので、被告は、その危規則上の危険物該当性を疑い、事前に自己反応性物質に該当するか否かを判定する義務があると主張している。
しかし、ジアゾ化合物は、オフィスや建築現場の青焼きとして使用されていた紙に塗布されていたものも含まれ、ジアゾ化合物だからといって、一般的に危険物とは考えられていない。PSRー80も、印刷用感光材料として用いられるものであり、通常は危険物であると認識されるべき性質のものではない。原告らの上記主張は化学的根拠を欠くものである。
ウ 本件各貨物は、自己発熱性物質ではあるが、自然発火性物質ではない。
本件各貨物の自然発火性試験及び自己発熱性試験の試験結果(丙ロ16、17)によれば、本件各貨物はいずれも、自然発火性物質には該当しない。
(2)争点2(本件事故の原因)
(原告らの主張)
ア 本件事故の原因は、本件各貨物が自己分解反応を起こしたことにある。
(ア)本件コンテナ内部において、NAー125は、扉側にまとめて積み付けられ、PSR-80は、その奥に並んでまとめて積み付けられていた。しかも、本件コンテナには、NA-125は5000Kg、PSRー80は400Kgという大容量が、NAー125については50Kgのファイバードラム100個に、PSRー80については10Kgのカートン40個に、それぞれ収納されていた。その容量からいって、これらは、本件コンテナ内に、3ないし4段に積み上げられており、また、本件コンテナ内の大部分を占領する形で、収納されていたはずである。この物質容量と積付状態のスケールアップ効果により、物質の外表面積は狭められ熱が逃げにくい状況にあった。本件各貨物は、いずれも包装状態のまま本件コンテナに収納されたものであり、保冷コンテナに収納されなかったため、様々な悪影響を受けた可能性がある。
そして、本件各貨物の一部分が最初に自己分解反応又は発熱反応を開始し、それが周囲に広がり、本件各貨物全体が熱暴走の限界温度に達して自己分解反応を引き起こすに至った。
(イ)自己加速分解温度は、ロットごと又は製品ごとに異なり得るので、PSRー80の自己加速分解温度が常に摂氏70度であるとは限らず、NA-125の自己加速分解温度が常に摂氏80度であるとも限らない。仮にPSR-80の自己加速分解温度が摂氏70度であり、NAー125の自己加速分解温度は摂氏75度を超えているとしても、自己反応性物質は物質の集積により蓄熱するので、自己加速分解温度よりも低い温度で自己分解反応を開始することはあり得る。
(ウ)また、自己発熱性物質は、摂氏100度に達しなくても自己発熱反応を開始するおそれのある物質であり、本件各貨物は自己発熱反応を起こした可能性も高い。自己発熱性物質は、空気(酸素)に晒されている限り、酸化によって自己発熱反応を生じる。自己発熱性物質が自己反応性物質でもある場合、発熱速度が放熱速度を上回ると(発熱速度>放熱速度)、次第に蓄熱温度が上昇していき、やがて自己分解反応を起こしてそれが発火へと発展していくことになる。
そして、本件各貨物は、自己発熱性物質兼自己反応性物質である、そのため、自己発熱反応による蓄熱温度が当該物質の自己分解反応を開始する温度に達すると、自己分解反応を開始する。この揚合、外部からの熱の供給がなくとも自らの発熱効果と蓄熱効果が相俟って、自己分解反応を開始する状態にまで温度を高める。
この「発熱速度>放熱速度」現象は、外部要因、特に外部から熱が加えられることになれば(例えば、本件における左舷第3燃料油タンクからの熱)、促進されると考えられ、本船の第3船倉底部において、本件コンテナに対して、それに面して加熱状態にあった左舷第3燃料油タンクの温度が、本件事故発見まで55時間ほど加えられたことは、本件各貨物の危険性顕在化の促進要素となった可能性がある。
(エ)平成16年10月20日当時、コンテナの温度が何度まで上がり、また、何度の時に本件各貨物が発火したのか、正確に調べることは不可能であるが、最適ポンプ移送温度が摂氏35度であることから、左舷第3燃料油タンク内の燃料油は、少なくとも摂氏30ないし40度に加熱されていたと考えられ、摂氏60度程度に加熱されていた可能性も排除できないところである。
(オ)したがって、本件各貨物の自己発熱反応及びこれによるスケールアップ効果等による蓄熱により自己加熱が生じ、同時に自己反応性物質たる性質を有するが故に、本件各貨物の両者が、又はその一つが、熱暴走の限界温度に達し、強烈な自己分解反応に至ったとするのが合理的である。
このように、本件事故は、本件各貨物又はそのどちらかの自己分解反応を原因とするものである。
イ (ア)これに対し、被告は、本件コンテナ内のフェルトペンから漏出したガスへの引火が、本件事故の原因であるなどと主張するが、フェルトペンが存在したことは十分に立証されていないし、被告が行った実験は信用できない。
(イ)また、被告は、左舷第3燃料油タンク及びその付近の温度が高温であったことを指摘して、左舷第3燃料油タンクの「空焚き」が本件事故の原因であると主張するが、平成16年10月20日午前6時において、第3燃料油タンクの液位は3.1mであったことが確認されており、「空炊き」の状態は生じていない。上記の高温の原因は、同月19日午後11時55分以前の段階で既に発生していた本件各貨物からの発熱にあると考えられる。
(ウ)さらに、被告は、左舷第3燃料油タンク内の燃料油の温度が摂氏92度に達していたと主張するが、仮に燃料油加熱パイプに全容量の蒸気が供給され最高の加熱状態であったとしても、本件コンテナの直下の温度は、摂氏72.5度を超えるものではなく(甲ハ43)、燃料油の温度が摂氏92度に達していたことをうかがわせる客観的状況も発生していないのであって、摂氏92度という数値は、燃料油の油温計が本件事故により壊れ、正しい温度表示をすることができなかったことによるものと考えられる。そして、そもそもコンテナ船の船倉内の温度については、何度に設定しなければならないとの規定はないから、仮に、被告が主張するように左舷第3燃料油タンクの空焚きがあったり、同タンク内の燃料油の温度が摂氏92度であったとしても、責任原因に影響しない。
(被告の主張)
ア 本件コンテナの奥の部分に積み付けられていた貨物がほとんど損害を被っていないことから、PSRー80は、本件コンテナ内部において、NAー125の上に積み付けられていたと考えられる。
イ NAー125の分解開始温度は摂氏143度、自己加速分解温度は摂氏80度とされ、また、PSRー80の分解開始温度は摂氏131度、自己加速分解温度は摂氏70度である。自己加速分解温度の定義に照らして、本件各貨物が自己加速分解温度よりも低い温度で自己分解反応を起こすことはない。
他方で、一般に、船倉内の温度は熱帯海域を含む航路でも摂氏35度程度であり、船倉内に積み付けられたコンテナ内部の温度変化は、極めて緩やかで小さく、外部の温度変化に緩慢に追従する。自己加速分解温度を測定するための蓄熱貯蔵試験は、化学物質を50Kgの包装形態に梱包されたときと同じ状態に置くものとされるが、PSR―80は10Kgの包装形態に入れられ、NAー125は50Kgの包装形態に入れられていた。
このように、本件各貨物は、蓄熱貯蔵試験の環境よりも放熱しやすく、かつ、蓄熱しにくい環境下に置かれていた。
原告らは、本件各貨物が自己分解反応を起こすために必要な温度及び時間並びに本件各貨物が当時そのような環境下に置かれていた事実を主張立証しなければならないところ、明確な主張立証はされていない。仮に本件各貨物の貯蔵の温度が自己加速分解温度より高温であったのであれば、左舷第3燃料油タンクの過熱という本船側の事情によるものと推認されるのであり、被告に帰責性はない。
ウ 本件各貨物は工業製品であり、通常、自己加速分解温度が製品又はロットごとに大きく異なることはない。そうすると、NA―125の自己加速分解温度は摂氏75度よりも高く、また、PSRー80のそれは摂氏70度とされるのであるから、本件各貨物が自己分解反応を起こすことはあり得ない。仮に、本件コンテナ内部の温度が摂氏60度近くになったとしてカも、PSRー80が自己分解反応を起こすことはあり得ない。また、通常の航行でコンテナ内に摂氏60度以上の高温が生ずるとは考えられない。そうすると、本件コンテナが第3船倉に積載されたことが本件事故の直接の原因とは考えられない。
エ 本件事故の原因は、次のいずれか、又は両者が競合したことによる。
(ア)本件コンテナ内に、積付表には記載されていないフェルトペン1200本入りの段ボールが数箱存在していた。本件コンテナ内部が、左舷第3燃料油タンクの加熱(後記(イ)の誤った加熱も含む。)の影響により、高温となり、本件コンテナの前部に積み付けられていたフェルトペンから可燃性ガスが発生し、可燃性ガスが本件コンテナの底部に滞留して爆発性混気を構成し、本件コンテナ内の貨物の梱包材の摩擦によって発生し滞留した静電気がスパークして、爆発性混気に引火して爆発し、本件各貨物に引火した可能性がある。
(イ)本件事故は、平成16年10月20日午前0時20分ころに、本船船員が、誤って第3燃料油タンクの温度を摂氏92度まで加熱したことにより、左舷第3燃料油タンクの外壁(本件コンテナの底面及び左側側面が約10ないし15cmの空隙を挟んで面している。)が相当長時間摂氏10O度を超える異常な高温となり、本件コンテナ内部も高温状態となって、本件各貨物が発火した可能性がある。
このことは、同日午前3時18分、乗組員が甲板下通路の左舷第3燃料油タンク頂部に向かい、温度を測ったところ、「very
hot」であったこと、その後、同日午前4時に海水が散布され、同日午前5時にシラクト・シサー等航海士(以下「一等航海士」という。)が同所で温度を測ったところ、摂氏70度であったことからも裏付けられている。
また、本船の左舷第3燃料油タンクに積載された燃料油は、流動点が摂氏35度という最も粘性の強い燃料であるため、機関室に移送するために加熱しなければならず、最低でも摂氏40ないし45度、現実には摂氏50度以上に加熱することも稀ではなかった。そして、当時、左舷第3燃料油タンクの燃料油の温度センサーは、不具合により摂氏30ないし33度を示していたため、必要以上に加熱したことが推認される。
(補助参加人ダイトーの主張)
自己発熱性試験は、試験物質を摂氏100ないし140度の恒温槽内部に吊り下げ、24時間連続して物質の温度を測定する内容の試験であり、試料を摂氏100ないし140度の環境下に置いた場合の、当該試料の温度上昇を計測するものであるから、自己発熱性物質である本件各貨物が、本件事故と関連性を有するというためには、船倉内の温度が摂氏100ないし140度にまで上昇していることが前提となる。しかし、原告らは、船倉内のこのような温度上昇について、その可能性を否定していることから、本件各貨物は、本件事故の原因とは無関係である。
(3)争点3(失火責任法の適用の有無)
(原告らの主張)
次のとおり、本件事故について失火責任法の適用はない。
ア 失火責任法は、狭隘な国土に木造家屋が密集する我が国の建物構造、都市構造の特殊性にかんがみ、失火による類焼被害を天災の如く捉える伝統的な慣習を背景にし、失火者に予期し得ない莫大な損害についてはその責任を限定しようとするものであって、極めて土着性の高い日本固有の法律といえ、その適用範囲は日本国内で発生した失火に限られるというべきである。よって、日本国外で発生した本件事故について失火責任法の適用はない。
イ また、失火責任法にいう「失火」とは、「火ヲ失シ火カノ単純ナル燃焼作用二因リ財物ヲ滅儘セシメタル場合」をいい、「燃焼」とは、酸化現象であり炎を伴う。これに対して、本件各物質は自己分解反応により、酸素の供給がなくても発熱及び分解するのであって、酸化現象である燃焼とは異なり、炎も伴わない。むしろ、自己分解反応により発生する窒素は燃焼を妨ぐのであるから、燃焼作用とは逆行する化学反応である。したがって、本件各貨物の自己分解反応は、火力の単純なる燃焼作用たる失火とはいえない。
ウ さらに、「失火」は、発火薬等の爆発作用による損害を含まないというべきである。本件事故の発生原因である本件各貨物は、その取扱いに高度の注意義務が課される危険物である。本件各貨物も、分解により多量の窒素ガス、熱を出すのであって、本件事故は「爆発」に該当するものである。このことは、本件コンテナの側面が外に向かって膨れ、亀裂が生じて裂け傷が付いていたこと及び本件コンテナ内に収納されていたその他の混載貨物が無傷の状態で残ったという本件事故後の状況とも合致する。なお、爆発といえる自己分解反応による高熱が火災へと発展したとしても、その火災によって生じた損害について、失火責任法の適用はない。
したがって、本件事故には失火責任法の適用がない。
(被告の主張)
次のとおり、本件事故には失火責任法が適用される。
ア 失火責任法には適用範囲を日本国内で発生した火災に限る旨の文言はないから、当然に日本国外で発生した火災にも適用される。
イ 失火責任法の立法趣旨は、第1に、何人も自己の財物を滅失しないように注意を怠らないのであり、失火の場合には自己の財物を焼失するため宥恕すべき事情がある揚合が少なくないこと、第2に、人家が密集する場所で失火した場合その損害は広範囲に及び予測できないのであり、失火者に予測不可能な損害の賠償責任を負担させることは酷であることにある。
本件でも、被告は、自己の財物を滅失しないように注意を怠らなかったし、本件事故により本件各貨物を消失しており、宥恕すべき事情が認められる。また、本船のような貨物が密集するコンテナ船で失火した場合には、その損害は、非常に広範囲かつ多数の貨物に及ぶため、損害の範囲は予測不可能である。実際、原告らの請求金額の総額は、現在、約11億円以上の巨額にのぼっている。仮に、本件事故が被告の失火によるとしても、その損害の賠償責任を全部被告に負わせることは甚だ酷である。このように本件は失火責任法の趣旨が妥当する典型的な場合であり、失火責任法が適用されるべきである。
ウ 原告らは、本件事故の原因は、自己分解反応であって、酸化現象や炎が発生するものではないから、火力の単純な燃焼作用である「失火」には該当しないとし、また、火災の原因が、火薬、ガス類といった取扱者に高度の注意義務が課されるものの爆発によるときには、失火責任法の適用がないとされているのと同様、仮に本件事故において火災が発生していたとしても、失火責任法の適用はないと主張する。
しかし、本件各貨物が自己分解反応を起こし、それに酸素の供給が伴わなかったとしても、自らの分子内にある酸素による酸化現象は認められるし、無炎燃焼も存在する。また、本件各貨物が自己分解反応を起こしたとしても、それが瞬時のもので一時に大量のガス、熱等を出したということはないから、爆発には当たらないし、本件各貨物は、火薬やガスのような危険物ではない。さらに、被告は、本件各貨物の製造、販売、梱包又は本'件コンテナ内への積付けに関与していない。したぶって、原告らの主張は失当である。
(4)争点4(被告の過失又は重過失の有無)
(原告らの主張)
被告には、本船側に対して、本件各貨物が危険物であることの通知等を怠った過失がある。仮に、本件事故に失火責任法の適用があるとしても、被告の過失は失火責任法にいう重過失に当たるというべきである。
ア 被告には本件各貨物の危険性が予見可能であったこと
(ア)被告は、ジアゾ化合物についての化学製品の性質、危険性等の情報を集約する組織を有しているから、本件各貨物の性状を熟知していた。また、被告は、補助参加人ダイトーと共に、共同してPSRー80の感光速度の調整のためのモル比の設定等を策定するなどしていた。このように、被告は、本件各貨物の危険性を認識し得るだけの専門知識を有していた。
(イ)被告及び補助参加人ダイトーは、平成15年12月以前、NAー125を危険物(自己反応性物質)として取り扱っていた。
(ウ)被告は、本件各貨物がジアゾ化合物であること及びジアゾ化合物が分子中にジアゾ基を含む物質であることを理解していた。
ジアゾ化合物、特に、共通の分子構造(1、2−ナフトキノンー2ージアジドー5ースルフォニル基)を含むナフトキノン系感光材が自己分解反応を起こしやすく、分解によって熱が発生する化学物質であることは、感光材を取り扱う業界においては共通の認識である。遅くとも補助参加人ダイトーから被告に対して「PSR-80の運搬方法について」と題する電子メール(甲ロ84)が送付された平成15年4月14日時点で、被告は、本件各貨物がジアゾ化合物であることを容易に認識することができた。
(エ)被告は、PSRー80の化学名を認識していたのであるから、危告示別表第1備考1(2)の表を確認すれば、その表中化学名の欄に「2−ジアゾー1−ナフトールー5ースルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」が掲げられており、PSRー80が自己反応性物質に該当する可能性があることを容易に認識し得た。
イ 被告に危険物分類義務(予見義務)があること
(ア)被告は、本件各貨物の物性について専門的知識を有していたことにかんがみれば、荷送人として、本件各貨物の海上運送を依頼するに当たり、その危険物該当性を正確に、かっ、周到に確認し、判断すべき高度の注意義務を負っていた。
(イ)船舶安全法27条に基づき危険物の輸送に適用されるIMDGコードは、自己反応性物質の例として、ジアゾニウム塩(diazonium salts)を挙げ(2.4.2.3.1.2)、IMDGコードが定める自己反応性物質かどうかは、国連が定めるマニュアル第2章の方法による危険性評価試験によって決定されなければならないことを定め(2.4.2.3.3)、危険物の分類は、荷送人又はIMDGコードに明記された適切な権限のある機関によりされなければならないとしている(2.0.0)。よって、危険物分類義務は、荷送人に課せられた法令上の義務である。
しかも、NAー125に関しては、本件事故前に危険性評価試験が実施されたのであるから、被告は、本件事故前に日本海事検定協会等の試験機関に対して依頼すれば、危険性評価試験の実施が可能であることを認識することができた。実際、富士フイルム株式会社は、濃度を除きPSR-80と同じ化学物質(acetone-pyrogallol copolymer 2-diazo-1-naphthol-5-sulphonate)について、危険性評価試験の実施を依頼している。
被告は、PSRー80の平成8年の化学物質安全性データシート(以下「MSDS」という。)の国連番号が空欄であり、同MSDSにより補助参加人ダイトーが、被告に対して、PSRー80は危険物に該当しないという情報を提供したので、被告としては当該情報を信頼していたと主張する。
しかし、危険物分類義務を課せられた荷送人である被告は、危険物分類義務を尽くして海上運送を委託する責任がある。また、PSR-801について、補助参加人ダイトーが、被告に対し、積極的に危険物ではないと伝えたことや、被告と補助参加人ダイトーが、PSR-80について危険物であるか否かの話合いをしたことはない。さらに、PSRー80の平成8年のMSDSの国連番号が空欄とされていることの意味について、被告が補助参加人ダイトーに対して確認をした事実も認められない。仮に被告において補助参加人ダイトーから提供された誤った情報を信用したとの事情があったとしても、それは飽くまで被告及び補助参加人ダイトー間の問題にすぎず、被告が荷送人としての責任を免れる理由にはならない。
(ウ)よって、被告には危険物分類義務(予見義務)違反がある。
ウ 被告が負っていた注意義務(結果回避義務)の内容及びその懈怠
(ア)荷送人の危険物表示義務、危険物明細書等の提出義務等危険物の海上運送においては、危規則及び危告示上、荷送人に対して、容器への標札等及び品名等の表示義務(危規則8条1項、危告示7条の2、7条の3)、コンテナの4側面への標識を付する義務(危規則24条、28条1項)並びに船舶所有者又は船長に対する危険物明細書ないしコンテナ危険物明細書の提出義務(危規則17条1項、危告示14条の3第1号、危規則30条1項、危告示16条の3)が課せられている。よって、被告は、コンテナ危険物明細書を作成してこれを本船の船舶所有者又は船長に提出すべき義務及び容器とコンテナそのものの外部側面の4面に危険物であることを示すステッカー(標札)を付すべき義務を負っていた。
(イ)危険物の積載方法及び積付位置等に関する義務
自己反応性物質及び自然発火性物質は、危告示別表第1分類欄の「可燃性物質類」に分類され、可燃性物質類については、その積載方法として、「発火源となる設備及び熱源から水平距離で3m以上離れており、かつ、できる限り温度の低い場所に積載すること」が要求される(危規則63条、危告示20条の3第1号)。また、危告示別表第1において、自己反応性物質の積載方法は「D」とされ、旅客船以外の船舶については、「甲板上積載」が要求される(危告示別表第1備考7)。自然発火性物質に関しても、危告示別表第1において、積載方法は「C」とされ、旅客船以外の船舶については、「甲板上積載」が要求される(危告示別表第1備考7)。したがって、被告は、本件各貨物について、「発火源となる設備及び熱源から水平距離で3m以上離れており、かつ、できる限り温度の低い揚所に積載すること」及び「甲板上積載」が要求されていた。
また、IMDGコード7.1.1.15は、「ある危険物のために、熱源からの保護が要求される場合には、熱源には、火花、炎、スチーム・パイプ(蒸気管)、ヒーティング・コイル(熱線)、加熱される燃料油及び貨物タンクの上面及び側壁、機関区域隔壁が含まれる。」と規定しているから、危告示20条の3第1号にいう「熱源」には、燃料油タンクの上面及び側壁が含まれる。
しかし、被告が荷送人に課せられた危険物表示義務及び危険物明細書等の提出義務を怠ったことにより、本件コンテナは、危規則及び危告示上の積載方法に反して、甲板下である第3船倉内、しかも熱源である左舷第3燃料油タンクから約15cmしか離れていない位置に積載された。
(ウ)小括
このように本件各貨物の積載については、いずれも上記(ア)及び(イ)の危険物輸送及び貯蔵に関する公法的規制に反していたところ、公法上の義務違反行為であっても、私法上の民法709条の不法行為に基づく損害賠償請求における「過失」を構成するというべきである。
(エ)申告義務及び周知徹底義務
仮に、本件各貨物が危険物に該当しないとしても、本件各貨物はジアゾ基を含んだ不安定な物質であり、被告は本件各貨物の性状を熟知していたのであるから、危規則とは別に、運送を委託するに先立って本件各貨物の危険性を荷役会社、海上運送人、船長等海上運送に従事する者に申告し、周知徹底すべき法律上の作為義務を負っていた。
さらに、被告は上記周知徹底義務を履行した上で、安全な輸送が確保できるように注意を尽くすべき義務を負担していたのであって、具体的には海上運送人又は船長に対して運送を引き受けてくれるか否か問い合わせ、乗組員の生命及び身体はもとより、運送船舶の船体又は積み合わせ貨物にも危害が及ぱないよう運送方法及び積付位置について海上運送人又は船長と事前に打ち合わせ、損害の発生を未然に防止するため最善の注意を尽くすべき義務を負っていた。
しかし、被告はそのいずれの義務をも怠った。
エ 被告に結果回避可能性があったこと
被告が、本件各貨物につき、これらが自己反応性物質ないし自己発熱性物質であることに基づいて、荷送人に課せられた義務である標札等及び品名等の表示又は危険物明細書若しくはコンテナ危険物明細書の提出を行っていれば、運送人は、本件コンテナ内に危険物である自己反応性物質ないし自己発熱性物質が収納されていることを認識することができた。その揚合には、運送人は、危規則、危告示及びIMDGコードにより、その積載方法を確認し、熱源等からの隔離及び甲板上積載を実施することができたので、本件事故は発生しなかった。
なお、平成15年以前及び本件事故後に同様の事故が発生していないのは、本件各貨物が危険物であるとの申告がされ、熱源等からの隔離及び甲板上積載が行われた結果である。
オ 被告に重過失があるといえること
(ア)失火責任法における重大な過失について、最高裁昭和32年7月9日第三小法廷判決・民集11巻7号1203頁は、「ここにいう重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指す」と判示している。
しかしながら、下級審裁判例では、形式的には「故意に近い著しい注意欠如」という枠組を用いながらも、具体的な判断に際し故意との対比を試みて重大な過失の有無を判断したものは少なく、むしろ、行為義務自体が高められている場合、とりわけ、業務上の注意義務違反がある場合に、その違反をもって重過失と判断する傾向にある。有力な学説もこのような立場を支持している。重過失を肯定した下級審判決は、「わずかの注意で認識し得た」とか、専ら客観的に「著しい注意義務違反」等の表現を用いるのが一般である。
(イ)被告は、荷送人である以上、自らの責任において、海上運送に関する規制を確認し、履行しなければならない。危険物の荷送人に課せられた法令上の義務は、海上運送中の事故を防止するためのものであり、危険物の荷送人には高度の注意義務が課せられているというべきである。危険物の海上運送に関し、荷送人に課せられた各種の義務を全く確認せず、かつ、履行していないこと自体が、危険物を取り扱い、海上運送を委託する荷送人に要求される高度の注意義務を著しく怠ったものであり、著しい注意義務違反がある。被告には重過失があるというべきである。
(被告の主張)
ア 本件各貨物は、いずれも危規則及び危告示における危険物に当たらない。
本件各貨物が危険物に該当することを前提とする原告らの主張は、すべて失当である。
イ 仮に本件各貨物が危険物に該当するとしても、危規則及び危告示は取締法規であり、これに違反したからといって直ちに私法上過失があるということはできない。
ウ 被告に予見可能性がなかったこと
本件では、次のとおり、結果回避義務違反の前提となる予見可能性を欠いていたから、被告が結果回避義務を負っていたということはできない。
(ア)被告は、本件事故に至るまでに、30回以上、本件各貨物の海上運送を委託しており(PSRー80については、平成14年2月以降24回)、1度も事故はなかった。なお、平成16年5月に日本政府がPSR-80と同一の化学式とされるCAS番号68584ー99ー6の物質を国連番号3228の危険物質に指定申請していたとしても、それは、補助参加人ダイト一からの情報によるものではなく、被告が日本政府と同様の認識を有していたわけではない。
(イ)本件事故の原因は船員の左舷第3燃料油タンク内部の加熱、誤操作と、本件コンテナ内のフェルトペンの存在であり、いずれも被告にとって予見不可能であった。さらに、本件損害が発生した主な原因は不適切な本件鎮圧活動によるものであり、これも被告にとって予見不可能であった。
(ウ)原告らは、被告が、補助参加人ダイトーに本件各貨物の危険性評価試験を行ったか否かを確認し、行っていない揚合には補助参加人ダイトー又は被告自らが試験機関に危険性評価試験の実施を依頼すべきであったと主張する。
しかし、被告は商社であり、実験設備を有していないし、補助参加人ダイトーから受領した本件各貨物のMSDSに海上運送に関わる危険物である旨の記載はされておらず、危険物ではないかと疑うべき理由はなかった。この点、PSRー80のMSDSに「火気、衝撃、摩擦、その他の熱源により、容易に分解・爆発する恐れがある。」との記載はあったが、他に「130度(分解点)」との記載もあるため、摂氏130度を超える場合に限って、自己分解反応又は爆発等の危険があるものと理解できるのであって、被告においてPSR-80が危険物ではないかと疑うべき理由とはならない。
また、危規則及び危告示には、荷送人に危険物該当性の判断義務、調査義務、安全確認義務及び評価試験を行う義務を負わせる規定はなく、貨物の性状を最もよく知る補助参加人ダイトーのMSDSにおいて危険物であると記載されていなかったのであるから、それ以上に被告において何らかの調査等をする義務があるとはいえない。
(エ)自己加速分解温度が摂氏55度以下の危険物について、温度管理が要求されていること(IMDGコード2.4.2.3.4.1)からすると、危険物の通常輸送中に特に事故が想定される船倉内の温度は、摂氏55度程度と思われる。しかし、これを超えて、被告が、本件コンテナ内において、10日以上摂氏60ないし70度程度の高温が続く可能性を予見できたとはいえない(乙29)。
エ 被告に予見義務違反がないこと
被告が、製造業者である補助参加人ダイトーに対して、定期的にMSDSの記載内容の変更の有無を確認したり、定期的にMSDSの交付を求めるべきという考え方は、平成5年3月26日厚生省・通商産業省告示第1号(乙60)等の規制の基本的な考え方と合致しない。
オ 被告に結果回避可能性がなかったこと
仮に被告の予見可能性が肯定されるとしても、本件各貨物の積付け位置を指示したのは補助参加人ダイトーであり、本件各貨物の積付けを実施したのも被告ではないから、被告に結果回避可能性はなかった。
カ 被告に結果回避義務違反がなかったこと
(ア)補助参加人ダイトーは、本件事故前に本件各貨物はいずれも危険物ではないという情報を被告に提供していた。本件各貨物は、本件コンテナが本船に船積みされた時点において、危険物に該当していなかったのであり、被告は原告らが主張する義務を負っていなかった。
(イ)本件では、被告は補助参加人パンテナ一との間で運送契約を締結し、補助参加人パンテナーはダムコとの間で運送契約を締結し、ダムコはピー・アンド・オーとの間で運送契約を締結していた。
そうすると、被告は、補助参加人パンテナーとの関係に限って荷送人であるにすぎず、ダムコ及びピー・アンド・オーとの関係においては荷送人ではない。
(ウ)危険物分類義務について、原告らは、これがIMDGコードに規定されていると主張するが、上記争点1(被告の主張)アのとおり、IMDGコード自体が本件に適用される根拠はない。
仮に本件において危険物分類義務が認められるとしても、被告は、製造業者である補助参加人ダイトーからMSDSを取得するなどして、商社として一般的に要求される調査を行い、MSDSの記載内容に従っていたのであるから、危険物分類義務を果たしていた。これを超えて、商社の側で、製造業者の提供する情報内容を疑い、自ら試験を実施し、又は試験機関に依頼しなければならないという考え方は、実務において採用されていない。原告らが挙げる富士写真フイルム株式会社の例は、実質的には同社が製造していると認められる例であり、商社である被告と同列に論じることはできない。
(エ)一般的告知義務は、危険物に限って告知義務を課するという危規則の基本的構造に反するものであり、認められない。
(オ)周知徹底義務は、学説上、製造業者の義務として論じられており、商社又は荷送人の義務としては論じられていない。
(カ)原告らは、これらの3つの義務違反を論ずるに当たり、過失を「義務違反」に置き換えて、この「義務違反」があれば被告は有責であるという論法をとっている。しかし、その内容はいずれも曖昧であって、過失責任の原則に反している。
キ 重過失とはいえないこと
本件では、被告の過失さえ認められないのであり、重過失が認められる余地はない。
仮に被告に予見可能性及び結果回避可能性が認められ、また、危規則及び危告示に違反したことから被告に注意義務違反があったことが事実上推定されるとしても、失火責任法の重過失はないというべきである。被告は、補助参加人ダイトーから本件各貨物は危険物ではないとの情報提供を受けており、本件各貨物の内容はこの情報に合致していたから、被告が、本件各貨物は非危険物であると信頼したことは正当である。
(5)争点5(損害の有無及び額)
(原告らの主張)
本件各貨物は、いずれも危規則及び危告示の定める危険物である。そのため、荷送人である被告は、危規則及び危告示に定められた各措置をとらなければならなかったにもかかわらず、これを怠ったため、本件コンテナは、船倉内の左舷第3燃料油タンク付近に積載され、それにより、同タンクの加熱と同時に熱せられ、本件コンテナ内の本件各貨物が自己分解反応を起こし、本件事散が発生した。その結果、原告らは、次のとおり、損害を受けた。なお、第3事件原告以外の原告らは、主位的請求として、外貨建てによる損害の賠償を、予備的請求として、円建てによる損害の賠償を請求する。
(第1事件原告らの主張)
ア 貨物に係る損害
(ア)損害の発生
別紙「原告ら損害額一覧表」1記載の「貨物」欄記載の各貨物について、本件事故又は本件鎮圧活動により、同「被害者」欄記載の各被害者に同「損害額」欄記載の各損害が発生した。
(イ)主位的主張−保険代位による損害賠償請求権の取得
本件事故に先立ち、第1事件原告らは、上記各貨物について、自己単独で又は共同保険特約付きで、貨物海上保険契約を締結していた。そこで、第1事件原告らは、上記各保険契約に基づき、上記各貨物に生じた損害について、同「保険引受割合」欄記載の割合に従って、同「保険金支払額」欄記載のとおり、上記各被害者に対して、保険金を支払った(支払当時の為替レートによる円相当額は、同別紙記載1の「日本円換算額」欄記載のとおりである。)。
よって、第1事件原告らは、いずれも保険代位に基づき、上記各被害者が有していた被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を取得した。
(ウ)予備的主張−債権譲渡による損害賠償請求権の取得
仮に同別紙1記載「貨物番号」1ないし7、9ないし13、15ないし24、27ないし29の各貨物について、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が上記各被害者に帰属しないとすれば、同損害賠償請求権は同「荷送人」欄記載の各荷送人に帰属していた。
第1事件原告らは、上記各貨物について、別紙「債権譲渡目録(第1事件原告)」記載のとおり、上記各荷送人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受けた。
イ 弁護士費用
本件事案の特殊性、困難性、訴訟の経過等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、第1事件原告ら各自について、上記ア(ア)の価額の1割を下らない。
(第2事件原告ら及び第4事件原告らの主張)
ア 貨物に係る損害
(ア)損害の発生
別紙「原告ら損害額一覧表」2及び3記載の「貨物」欄記載の各貨物について、本件事故又は本件鎮圧活動により、同「被害者」欄記載の各被害者に同「損害額」欄記載の各損害が発生した。
(イ)第4事件原告ゼロックスの主張
第4事件原告ゼロックスは、同別紙3記載「貨物番号」10に係る荷送人の被告に対する不法行為に対する損害賠償請求権を譲り受けた。
(ウ)第2事件原告ら及び原告ゼロックスを除く第4事件原告らの主位的主張−保険代位による損害賠償請求権の取得
原告ゼロックスを除く第2事件及び第4事件原告らは、本件事故に先立ち、同別紙2及び3記載(同別紙3記載「貨物番号」10を除く。以下同じ。)の「貨物」欄記載の各貨物について、同「保険引受割合」欄記載のとおり、貨物海上保険契約を締結していた。
そこで、原告ゼロックスを除く第2事件及び第4事件原告らは、上記各保険契約に基づき、上記各荷物に生じた損害について、同「保険金支払額」記載のとおり、上記各被害者に対して、保険金を支払った。
よって、原告ゼロックスを除く第2事件及び第4事件原告らは、いずれも保険代位に基づき、上記各被害者が有していた被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を取得した。
(エ)第2事件原告らの予備的主張ー債権譲渡による損害賠償請求権の取得仮に同別紙2記載「貨物番号」3、4、6ないし13及び15の各貨物について、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が同「被害者」欄記載の各被害者に帰属しない場合には、同損害賠償請求権は同「荷送人」欄記載の各荷送人に帰属する。
第2事件原告らは、別紙「債権譲渡目録(第2事件原告)」記載のとおり、上記各荷送人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求、権を譲り受け、上記各荷送人を代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
(オ)第4事件原告ソンポ・ジャパン・ヨーロッパの予備的主張ー債権譲渡による損害賠償請求権の取得
a 仮に上記(ウ〕の保険代位による被告に対する損害賠償請求権の取得が認められないとしても、第4事件原告ソンポ・ジャパン・ヨーロッパは、別紙「原告ら損害額一覧表」3記載「貨物番号」5の貨物について、別紙「債権譲渡目録(第4事件原告)」2記載のとおり、被害者である荷受人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受け、同荷受人を代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
B 仮に別紙3「原告ら損害額一覧表」記載「貨物番号」5の貨物について、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が荷受人に帰属しない場合には、同損害賠償請求権は同「荷送人」欄記載の荷送人に帰属する。
第4事件原告ソンポ・ジャパン・ヨーロッパは、同「貨物番号」5の貨物について、別紙「債権譲渡目録(第4事件原告)」1記載のとおり、上記荷送人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受け、同荷送人を代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
(カ)第4事件原告アクサ、同マンハイマー、同クラバグーアルゲマイネ、同ビクトリア、同エイチディーアイーゲーリング、同コンドアの予備的主張ー債権譲渡による損害賠償請求権の取得仮に上記(ウ)の保険代位による被告に対する損害賠償請求権の取得が認められないとしても、第4事件原告アクサ、同マンハイマー、同クラバグーアルゲマイネ、同ビクトリア、同エイチディーアイーゲーリング、同コンドアは、別紙「原告ら損害額一覧表」3記載「貨物番号」8の貨物について、別紙「債権譲渡目録(第4事件原告)」3ないし7記載のとおり、被害者である荷受人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受け、同荷受人を代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
(キ)第4事件原告レーンスフォルセークリンガーの予備的主張ー債権譲渡による損害賠償請求権の取得
a 仮に上記(ウ)の保険代位による被告に対する損害賠償請求権の取得が認められないとしても、第4事件原告レーンスフォルセークリンガーは、別紙「原告ら損害額一覧表」3記載「貨物番号」9の貨物にっいて、別紙「債権譲渡目録(第4事件原告)」9記載のとおり、被害者である荷受人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受け、同荷受人を代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
b 仮に別紙3「原告ら損害額一覧表」記載「貨物番号」9の貨物について、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が荷受人に帰属しない場合には、同損害賠償請求権は同「荷送人」欄記載の荷送人に帰属する。
第4事件原告レーンスフォルセークリンガーは、同「貨物番号」9の貨物について、別紙「債権譲渡目録(第4事件原告)」8記載のとおり、上記荷送人から、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受け、同荷送人を代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
イ 弁護士費用
本件事案の特殊性、困難性、訴訟の経過等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、第2事件及び第4事件原告ら各自について、上記ア(ア)の各価額の1割を下らない。
(原告NYKの主張)
ア 本件事故の結果、第3船倉内の本件コンテナが積み付けられていた箇所を中心として、本船が一部焼損したことはもとより、本件鎮圧活動、原因調査、本船の仮修繕等の結果、原告NYKが本船のサーベイ費用、本件鎮圧活動に要した費用、仮修繕費用、本修繕費用、管理費及びその他諸経費を支出し、また、本船の仮修繕及び本修繕の間、得ることのできたはずの利益を失ったのは、被告が本件各貨物が危険物であることの通告を怠ったという不法行為によって発生した損害である。被告が、本件各貨物について危険物通告の義務を履行していたならば、本船側において本件コンテナを熱源から離れた甲板上のできるだけ温度の低い揚所に積み付けたはずであり、本件事故を回避することができた。よって、被告は、原告NYKに対し、不法行為に基づき損害賠償責任を負う。
イ また、日本郵船は、所有するコンテナ(コンテナ番号GATU1157375.20フィート・ドライコンテナ)を本船に積載しており、本件事故により、同コンテナを焼損した。当該焼損による日本郵船の損害は、1926.83米国ドルである。日本郵船は、上記損害について被告に対して不法行為に基づく損害賠償請求権を有するところ、平成17年10月17日、同請求権を原告NYKに譲渡し、その旨被告に対し内容証明郵便にて通知した。
ウ 原告NYKの本件事故による損害額は、5925万5008円、127万2001.30米国ドル(上記イを含む。)(1米国ドル115.65円換算で1億4710万6950円)、20万7428.11ユーロ(1ユーロ138.32円換算で2869万1456円)、3万5570.21ポンド(1ポンド202.44円換算で720万0833円)、1万1389.06シンガポー一ルドル(1シンガポールドル68.24619円換算で77万7260円)、10万ウォン(1ウォン0.1099、3円換算で1万0993円)の合計2億4304万2500円である。
また、本件事案の特殊性、困難性、訴訟の経過等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、上記価額の1割である2430万4250円を下らない。
エ よって、損害額は、2億6734万6750円である。
(原告ヤマザキの主張)
ア 貨物の損害について
(ア)主位的主張
ヤマザキマザックトレ一ディング株式会社(以下「ヤマザキマザックトレーディング」という。)を荷送人とし、原告ヤマザキを荷受人とする金属製機械「インテグレックス300ー3ST」、「インテグレックス300―3」、「マルチプレックス6200」及び「FMSFH1080」(以下「本件金属機械」と総称する。)は、平成16年9月29日ころ、名古屋港において、本船の第3船倉内に積載され、これを証するため、ヤマザキマザックトレーディングに対して、海上運送状1通(運送状番号MISCNGOOOOOO2881)が発行交付された。本件金属機械は、本件事故ないしその消火のための海水の放水による水濡れにより損傷を受けた。その損害額は、82万8281ユーロ(1億3246万6980円)である。
よって、原告ヤマザキは、被告に対して、同額の不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。
(イ)予備的主張
仮に本件金属機械に係る損害についての被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権が原告ヤマザキに帰属しない揚合には、同損害賠償請求権は、ヤマザキマザックトレーディングに帰属するが、原告ヤマザキは、ヤマザキマザックトレーディングから、被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権を譲り受け、ヤマザキマザックトレーディングを代理して、被告に対し、上記債権譲渡の通知を発送し、平成20年3月3日、これが被告に到達した。
イ 弁護士費用
本件事案の特殊性、困難性、訴訟の経過等に照らし、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用は、上記アの価額の1割を下らない。その額は1324万6698円である。
ウ よって、原告ヤマザキの損害額は、82万8281ユーロ及び1324万6698円である。
(被告の主張)
ア 本件各貨物は、危険物ではなく、必ず甲板上に積載されたとは限らない。したがって、仮に被告に過失又は重過失があるとしても、これと損害発生との間に相当因果関係がない。
イ 大部分の貨物の損害の原因は、海水貯溜による海水濡れにある。そして、スプリンクラーによる海水散布をしたことで、第3船倉のハッチコーミング(船倉の倉口の周辺に設けられる縁材)の周囲の温度は急激に下がったこと、本船には、十分な排出能力のあるポンプが備えられていたことからすれば、海水貯留は不要であった。それにもかかわらず、海水貯留がされたのは、第3燃料油タンク内部の過熱状態を冷却するためであったと考えるのが合理的であり、このような過熱状態を引き起こした責任は、専ら原告NYKにある。
ウ 原告らの主張する債権譲渡について、その譲受人は代理人により債権譲渡契約を締結しているが、その代理権の存在を証する証拠は提出されていないから、債権譲渡の主張は否定されるべきである。
(原告らの反論)
ア 本件コンテナが甲板上で、発火源となる設備及び熱源から水平距離で3m以上離れ、かつ、できる限り温度の低い揚所に積載されていたとすれば本件各貨物の発火に至ることはなかった。仮に、本件各貨物が発火していたとしても、甲板上の積付け位置で発火していたのであれば、今回原告らが貨物海上保険を引き受けていた貨物を収納したコンテナは全て甲板下に積み付けられていたのであるから、損害は生じなかった。被告が本件コンテナの外部側面に危規則及び危告示で義務付けられていた標札を付することを怠ったこと、コンテナ危険物明細書の提出を怠ったこと等と原告らが貨物海上保険を引き受けていた貨物が損害を受けたこととの間には条件関係がある。
イ そして、相当因果関係は、原因と結果との間に、(1)条件関係があるか、(2)帰責相当性判断によって(1)についての判断を修正する必要があるか否かによって判断されるところ、本件においては、上記アのとおり、本件各貨物の危険性を告知しなかったという事実がなければ損害が発生しなかったという条件関係が存在し、それを修正する帰責相当性判断要素は存在しない。
ウ 被告は、左舷第3燃料油タンク内の燃料油の異常な加熱が本件事故の原因であると主張するが、被告の本件各貨物の危険性不告知がなければ本件各貨物は「甲板上積載」(危告示別表第1備考7)がされていたはずであり、仮に、左舷第3燃料油タンク内の燃料油の異常加熱があったとしても、甲板上積載された本件各貨物の発火原因となる余地はなく、被告の主張は、因果関係の中断事由となるものではない。
エ また、被告は、原告らの損害は専ら不適切な鎮圧活動によるものであると主張する。しかしながら、船舶の内部構造は複雑で、換気が十分にできない場所も多く、このような場所における事故であれば、酸欠や有毒ガスによる人身事故の危険があるし、船体の主要構造材料が鋼であることから、熱伝導性が良く、延焼可能性も高い。それゆえ、本件事故の際も、完全な鎮圧が要求されたが、他方で、本件事故当時、船長らは、その原因も揚所も特定できていなかった上に、船舶の構造の複雑さから、乗組員が対象物へ接近して鎮圧活動を行うことも困難であった。また、スプリンクラーによる散水のみでは、コンテナ内の貨物の状況を確認できず、完全な鎮圧を図ることができなかった。このような状況にかんがみれば、船長が、二酸化炭素を投入し、スプリンクラーによる散水をした後、更に海水を注入したことは、完全鎮圧を目的とした適正な活動ということができる。
(6)争点(6)(損益相殺−共同海損分担金請求権)
(被告の主張)
本件については、共同海損手続が進行中であり、原告らには、本訴訟で請求している損害の一部を填補する共同海損分担請求権が認められる可能性が高い。共同海損手続が開始されている状況下において、重ねて不法行為による損害賠償請求訴訟を提起することは、過剰な権利行使であり、原告らが共同海損分担金請求権を放棄しない限り、否定されるべきである。したがって、本訴訟における請求は速やかに棄却されるべきである。
(原告らの主張)
ア 共同海損分担請求権と本訴による損害賠償請求権のいずれを行使するかは、原告らにおいて任意に決めることができる。
イ 共同海損手続は、有責な者がいる場合にはその者に対する求償を予定しており、被告は有責な者であるから、仮に原告らに共同海損分担請求権があるとしても、そのことを理由に被告が不法行為責任を免れることはできない。
(7)争点7(消滅時効の成否1)
(被告の主張)
ア 原告東京海上日動は、平成19年12月21日付け「訴え変更及び訴状訂正申立書」において、従来の請求に加えて、別紙「原告ら損害額一覧」1記載「貨物番号」29に関する請求金額521万6664円を追加した。
上記貨物は、55梱包の製造用自動車部品であり、保険者が原告東京海上日動、被保険者兼売主がミツビシ・モーターズ・ユーロブ・B.V.(Mitsubishi Motors Europe B.V.以下「ミツビシ・モーターズ・ユーロプ」という。)であった。
イ ミツビシ・モーターズ・ユーロブは、遅くとも平成16年12月10日に、損害及び加害者を知った。
ウ 平成19年12月10日は経過した。
エ 被告は、平成20年2月12日の本件第8回弁論準備手続期日において、上記時効を援用した。
(原告東京海上日動の主張)
被告の主張アは認め、同イは否認する。
カニンガム・リンゼイ検査会社(以下「カニンガム・リンゼイ」という。)は、平成16年12月1日付け「第2次予備報告書」(甲イ2)を作成したが、同報告書において本件事故の原因について最終的な結論を留保し、調査中としていた。そして、カニンガム・リンゼイは、平成17年3月9日付け最終報告書(甲イ3及び4。以下「カニンガム・レポート」という。)において、平成16年12月21日の調査結果をも踏まえ、初めて被告が本件事故について有責であると結論付けた。したがって、原告東京海上日動は、平成16年12月の時点では加害者を知らなかった。
(8〕争点8(消滅時効の成否2)
(被告の主張)
ア 原告ヤマザキは、平成20年2月4日、第5事件の訴えを提起した。
イ 原告ヤマザキは、遅くとも平成16年12月31日までに損害及び加害者を知った。
ウ 平成19年12月31日は経過した。
エ 被告は、平成20年4月15日の本件第9回弁論準備手続期日において、上記時効を援用した。
(原告ヤマザキの主張)
被告の主張イは否認する。
原告が、被告が主張する時期に「加害者及び損害を知った」ことを示す証拠はなく、そのような事実は認められない。
第3 当裁判所の判断
1 判断の構造
本件における当裁判所の判断の構造についてまず示しておく。
本件の争点は、被告に不法行為責任があるか否か(争点1ないし4)、被告に不法行為責任がある場合には、その損害の額(争点5)、さらに、抗弁として損益相殺ー共同海損分担金請求権の有無(争点6)又は消滅時効の成否(争点7及び8)である。
まず、前提となる事実関係を確定するため、本件各貨物が危険物に該当するか否か(争点1)及び本件事故の原因(争点2)について判断する(争点1及び争点2は、争点3の判断の一部を構成するものであるが、仮に本件各貨物が危険物ではなく、本件事故の原因でもないとすれば、争点3以下の判断は不要となる。)。
次に、本件各貨物の全部又は一部が、危規則及び危告示上、危険物であり、本件事故の原因であると認定することができる場合には、被告の行為について法的評価を加え、失火責任法の適用の有無(争点3)、被告の予見可能性の有無、注意義務の内容及びその懈怠の有無等について検討し、過失又は重過失があるか否か(争点4)についての判断をする。
さらに、仮に被告に過失又は重過失が認められる場合には、損害の有無及び額(争点5)並びに抗弁(争点6ないし8)について判断することとする。
2 争点1(本件各貨物の危険物該当性)について
(1)危険物の意義について
本船については日本船舶ではなくても船舶安全法の規定が準用されるところ(同法29条の7)、同法28条1項は、危険物の運送に関する技術的基準を国土交通省令に委任している(なお、船舶安全法施行令1条及び2条は、同法28条を準用される規定に挙げていないが、同条は、その規定の性格からして、外国船舶について当然に準用されるものであると解される。)。同委任を受けた危規則2条1号は、危険物の定義規定を置いており、同号二で「可燃性物質類」が危険物の一つであるとされ、可燃性物質類は、可燃性物質(火気等により容易に点火され、かつ、燃焼しやすい物質で、告示で定めるものをいう。同号二(1))、自然発火性物質(自然発熱又は自然発火しやすい物質で、告示で定めるものをいう。同号二(2))及び水反応可燃性物質(水と作用して引火性ガスを発生する物質で、告示で定めるものをいう。同号二(3))の3個のものとされている。そして、危告示2条4項は、危規則2条1号二(1)、(2)及び(3)の告示で定めるものを「それぞれ、別表第一の品名の欄に掲げる物質のうち、項目の欄が可燃性物質、自然発火性物質及び水反応可燃性物質であるもの」としている。
危告示別表第1の品名欄の「自己反応性物質D(固体)(備考1(2)の表に掲げられたもの)」(国連番号3226)は、項目の欄が可燃性物質であり、同品名欄の「自己発熱性物質(有機物)(固体)(他に品名が明示されているものを除く。)」(国連番号3088)は、項目の欄が自然発火性物質であるから、これらは、いずれも危規則2条1号に規定する危険物である。
(2)NAー125の危険物該当性
ア NAー125の可燃性物質該当性
(ア)証拠(甲イ137の1、甲ロ6、7、44、乙1、4、29)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる
危告示別表第1備考1(2)の表は、化学名「2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%のもの)」を国連番号3226:自己反応性物質D(個体)に分類しているが、同表の自己反応性物質D(固体)中に化学名「2ージアゾー1一ナフトールー5一スルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%未満のもの)」は存しない。
同表の自己反応性物質D(固体)中には、「その他の化学名」のものが記載されているところ、「その他の化学名」の判定は、当時は、IMDGコードに規定する有機過酸化物の危険性区分のための試験方法及び品名の判定方法のうち、船籍地を管轄する地方運輸局長が適当と認めるものにより判定するとされていた(危告示別表第1備考1(2)の表の備考1)。なお、現在の危告示においては、「その他の化学名」のタイプは、危告示別表第1備考2(5〕(ii)の判定基準により決定するものとされている(同備考1(2)の表注1)。同備考2(5)(ii)によれば、自己反応性物質のタイプの判定基準は同備考2(5)(ii)の表のとおりであり、これはIMDGコード2.4.2.3.3に規定する自己反応性物質の試験によるものとされ、更に、次のいずれかに該当するものは、自己反応性物質には該当しないとされる(同表の注1及び2)
(1)火薬類
(2)酸化性物質(可燃性の有機物を5質量%以上含むものを除く。)
(3)有機過酸化物
(4)50Kgを容器に収納した状態の自己加速分解温度が摂氏75度を超える物質
(5)分解熱が300J/g未満のもの
国土交通省海事局検査測度課長通達「物質の危険性評価の試験方法及び判定基準」(国海査第263号の3。平成14年8月21日付け)は、自己反応性物質につき、「熱的に不安定な物質であり、酸素(空気)の供給がない場合であっても強烈に自己分解し易い物質」とした上、50Kgの輸送物における自己加速分解温度が摂氏75度を超えるものは自己反応性物質に該当しないものと定めている(第6節の1、2.1)。
試験の結果、NAー125は、その濃度(純度)が最大92.1%であり、7.9%以上の不純物及び水分が含まれており、50Kgの輸送物における自己加速分解温度は、摂氏75度を超えているものであった。
(イ)以上によれば、まず、NAー125は、「2ージアゾー1ーナフトールー5−スルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%のもの)」には該当しない。この点について、原告らは、NA-125に占める危険物の濃度は90%を超え、数%程度の水分を含むからといって危険性が除去されたとはいえないから、工業的純品は濃度が100質量%のものに当たると主張するが、7.9%以上の不純物及び水分が含まれているNAー125を工業的純品ということができるかどうかは疑問があり、また、数%の水分及び不純物を含む物質についても「濃度が100質量%のもの」ということができることを認めるに足りる証拠もない。原告らの主張を採用することはできない。
(ウ)他方、危告示別表第1備考1(2)の表には、「2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%未満のもの)」という化学名は存しないが、このような物質がおよそ危険性を有しないということはできず、同備考1(2)の表と同内容であるIMDGコードは、技術的に純粋な物質でないものに関しては、IMDGコードの手続に従って異なって分類され得るとしていることからすると、「2ージアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸ナトリウム(濃度が100質量%未満のもの)」は、その危険性に応じて「その他の化学名」として、自己反応性物質D(固体)に分類される可能性もあり得るというべきである。
しかしながら、NAー125は、上記(ア)のとおり、50Kgの輸送物における自己加速分解温度が摂氏75度を超えるのであり、自己反応性物質から除外される性質を有しているから、国連番号3226:自己反応性物質D(個体)のうち「その他の化学名」に該当することもないというべきである。
イ NAー125の自己発火性物質該当性
(ア)証拠(甲イ137の1、甲ロ6、丙ロ17)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
危告示別表第1は、「自己発熱性物質(有機物)(固体)(他に品名が明示されているものを除く。)」(国連番号3088)は、可燃性物質類のうち自然発火性物質に該当し、その等級は4.2、容器等級はU又はVとしている。
同別表第1備考2(3)は、可燃性物質類について、同一の品名に対して、複数の容器等級が掲げられている場合には、燃焼速度実験、自然発火性試験又は水との反応試験を実施し、その試験成績に基づき判定するとしている。
可燃性物質類は、可燃性物質、自然発火性物質(広義)及び水反応性可燃性物質に分類され、広義の自然発火性物質とは、自然発熱又は自然発火しやすい物質をいい、狭義の自然発火性物質と自己発熱性物質に分類され、狭義の自然発火性物質とは、少量であっても空気と接して5分以内に発火する物質をいい、自己発熱性物質とは、狭義の自然発火性物質以外の物質であって、空気と接した場合にエネルギーの供給なしに自然発火しやすい物質で、大量(数Kg)かつ長時間(数時間又は数日)経過した揚合に限り発火しやすいものをいうとされている。カヤテックが行ったNA―125に対する「危険物輸送に関する国連勧告の試験及び化学物質の危険性評価試験」において、平成17年12月9日実施の自己発熱性試験の結果は、「Class4.2自己発熱性物質に該当する。容器等級U」との判定であった。他方、同月8日実施の自然発火性試験においては、NA-125は、「Class4.2自然発火性物質に該当しない。」との判定であった。このうち、NAー125が自己発熱性物質に該当するとした検査結果(丙ロ17)は、その試験方法が国連勧告に沿うものであって、信用のできるものである。
(イ)以上からすると、NA-125は、自己発熱性物質(有機物)(固体)(国連番号3088)に該当するものであり、その危告示別表第1の項目の欄は自然発火性物質であるから、危険物である可燃性物質類に該当するということができる。
ウ 小括
以上によれば、NAー125は、危規則2条1号に規定する危険物に該当する。
(3)PSRー80の危険物該当性
ア PSRー80の可燃性物質該当性
(ア)証拠(甲ハ8、33、乙16、17、丙ロ3ないし5、15)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
危告示別表第1備考1(2)の表は、化学名「2ージアゾー1ーナフトニルー5ースルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」及び「2ージアゾー1−ナフトールースルホン酸エステルD(濃度が100質量%未満のもの)」を国連番号3226:自己反応性物質D(個体)に分類している。
PSR-80は、1.0ないし1.2%の水分を含み、合計3.0%以下の不純物を含んでいるものであった。補助参加人ダイトーが、PSRー80について、カヤテック及び日本海事検定協会理化学分析センターに依頼して本件事故後に蓄熱貯蔵試験を始めとするクラス4の危険物該当性の判定試験を行った結果、PSRー80は、50Kgの輸送物における自己加速分解温度が摂氏70度と、判定され、燃焼速度実験からクラス4.1の可燃性物質類・可燃性物質(容器等級V)に該当すると判定された。
補助参加人ダイトーは、本件事故後、PSRー80にっいて、国連番号3226及び3228の危険物に該当するものとして取り扱うこととした。
(イ)以上によれば、PSR-80は、濃度が100質量%のものであるということはできず、化学名「2−ジアゾー1ーナフトールー5ースルホン酸エステル(濃度が100質量%のもの)」には該当せず、また、自己反応性物質Dの要件に適合するか否かの判定はされていないから、「2ージアゾー1−ナフトールースルホン酸エステルD(濃度が100質量%未満のもの)」に該当することを認めるに足りる証拠もない。
しかしながら、上記(ア)のとおり、試験の結果、PSR-80は、クラス4.1の可燃性物質類・可燃性物質(容器等級III)に該当すると判定されており、その後の補助参加人ダイトーのPSR-80の取扱いにかんがみると、「その他の化学名」として、可燃性物質である国連番号3226:自己反応性物質D(個体)又は国連番号3228:自己反応性物質E(固体)に該当するということができる。
イ PSRー80の自然発火性物質該当性
(ア)証拠(丙ロ16)及び弁論の全趣旨によれば、日本海事検定協会理化学分析センターのPSR-80に対する平成16年12月24日実施の自然発火性試験及び自己発熱性試験の結果は、前者が「可燃性物質類、自然発火性物質、容器等級Tに該当しない。」、後者が「自己発熱性物質、容器等級Uに該当する。」との判定であったことが認められる。PSR-80が自己発熱性物質に該当するとした同検査結果は、その試験方法が国連勧告に沿うものであって、信用のできるものである。
(イ)以上からすると、PSRー80は、自己発熱性物質(有機物)(固体)(国連番号3088)に該当するものであり、危告示別表第1の項目の欄が自然発火性物質であるから、危険物である可燃性物質類に該当するということができる。
ウ 小括
よって、PSR-80は、可燃性物質類のうち可燃性物質及び自然発火性物質に該当するものであって、危規則2条1号に規定する危険物に該当する。
3 争点2(本件事故の原因)について
(1)証拠(後に掲げたもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件事故の発生に至るまでの状況(甲ハ22、乙7の1、2、乙8、9、11ないし13、16、21、22、24、25)
(ア)被告は、平成15年12月16日、ディーケイエスエイチ・スウィッァーランド・リミテッド(DKSH Switzerland Ltd.以下「DKSH」という。)に対して、NA−125合計3万Kg(6単位。1単位5000Kg)を、代金合計4620万円(1単位各770万円)で売った。
DKSHは、平成16年8月16日、被告に対し、NA-125(500oKg)の日本からの6回目の船積みを指示し、被告は、同月19日、上記指示を確認した。
DKSHは、同年9月8日、被告に対してPSR-80(400Kg)の出荷も指示し、被告は、同月9日、上記指示を確認し、DKSHに対して、PSR-80(400Kg)を代金792万2000円で売った。
(イ)被告は、同年8月17日、補助参加人ダイトーに対して50OOKgのNAー125の購入を申し込み、補助参加人ダイトーは、これを代金785万9250円で売り、ファイバードラム缶10O個に梱包して、川西倉庫神戸支店六甲ターミナル西営業所(神戸市東灘区向洋町西1-1所在)で引き渡すことを約した。
被告は、同年9月9日ころ、補助参加人ダイトーに対して400KgのPSRー80の購入を申し込み、補助参加人ダイトーは、同月13日ころ、これを代金735万円で売り、カートン10個に梱包して、上記営業所で引き渡すことを約した。
補助参加人ダイトーは、同月22日にPSR-80を、同月24日にNA-125をそれぞれ被告に引き渡した。
補助参加人ダイトーは、被告に対して、NA-125につき、同年9月10日付け「分析証明書」(乙1)を、PSR-80につき、同月15日付け「分析証明書」(乙16)を、それぞれ交付した。PSRー80の分析証明書には、「保管」欄に「遮光し、しっかり閉めた容器で冷暗所に保管」と記載されていた。
(ウ)被告は、同年9月22日付け送り状で、DKSHに対し、5000KgのNA-125(代金770万円。ファイバードラム缶(これは、胴部がファイバードラム厚紙、底部がポール紙及び合紙でできたものであって、鉄製の蓋及び締めバンドが付いているものである。)100個分)及び400KgのPSRー80(代金729万200O円。カートン(これは、段ボール箱である。)40個分)を、同月28日に神戸を出航し、ロッテルダムまで、本船で運送すること等を通知し(乙14)、同月24日、本件各貨物について引渡確認書(乙15、26)を送付した。
(エ)本件各貨物は、同年9月27日ころ、神戸港のコンテナ・フライトステーションにおいて本件コンテナに収納され、本件コンテナは、本船に積み付けられた。
本船は、同月28日に神戸港を、同年10月1日に清水港を、同月8日にシンガポール港を、それぞれ出港した。シンガポール出港時の本船の状態は、次のとおりであった。
a 積載コンテナ数 3559個
b 積載危険物コンテナ数 80個
c 積載冷凍コンテナ数 92個
d 燃料
右舷第3燃料油タンク 約500トン
左舷第3燃料油タンク 約500トン
右舷第4燃料油タンク 約900トン
左舷第4燃料油タンク 約903トン
右舷第7燃料油タンク 約1000トン
左舷第7燃料油タンク 約1000トン
その他 約180トン
e ディーゼル油 約213トン
(オ)平成工6年10月13日午前11時30分時点で第3燃料油タンク内の燃料油は、左舷が446.1トン、i摂氏32度、右舷が444.6トン、摂氏37度であって、特に異常はなかった。
本船は、同月16日午後9時30分、スエズ港に入港し、同月17日午後5時、スエズ運河を通航して、ポート・サイドを通過した。そのころ左右の第3燃料油タンクの加熱が開始された。同月18日午後10時ころから、右舷第3燃料油タンクの燃料油が主燃料として用いられ始めた。このとき左右各舷の燃料油の温度は、摂氏30度であった。
(カ)同月19日午前7時30分、左舷第3燃料油タンクの燃料油(452.0トン)に主燃料が切り替えられた。このとき、右舷の残燃料油は、428.7トン、温度は摂氏33度であった。同日午後5時30分、右舷第3燃料油タンクの燃料油に主燃料が切り替えられた。
イ 本件事故発生時の状況(甲ハ10添付の航海日誌抜粋、甲ハ20、22ないし32)
(ア)同月19日午後11時55分、本船が北緯38度、東経6度39分3秒を航海中、本船の煙検知装置が第3船倉における火災を知らせる警報音を発した。
ニコラ・タバール船長(以下「船長」という。)は、同日午後11時58分、アルバトラニ等航海士(以下「二等航海士」という。)に対し、第3船倉に行き、状況を見て報告するように命じた。
(イ)同月20日午前0時00分ころ、船体の前部から大量の煙が出た。
二等航海士は、第3船倉のマンホールから煙が出ていることを確認し、船長に報告した。
船長は、二等航海士に対し、そのマンホールを封鎖して、直ちに居住区に引き返すよう命じた。
船長は、非常警報を鳴らし、船内放送で火災の事実を発表させた。
(ウ)同日午前0時13分、第4船倉の煙検知装置が警報音を発した。
船長は、同日午前0時24分、二等航海士に対し、第3船倉のすべての通風を遮断することの確認を命ずるとともに、通風遮断を確認している消化班を除き全員を居住区に戻した。同日午前0時20分から午前0時30分までの問、第3燃料油タンク左舷遠隔感知機読取値の温度は摂氏92度(測深値は0.25m)を示していた。
(エ)船長は、同日午前1時45分までに第1ないし第4船倉の通風装置を遮断し、第3船倉に炭酸ガスを注入するとともに、第3船倉甲板上で船倉の境界部を冷却するなど第3船倉からの延焼を抑える初期活動を完了し、同日午前1時46分、船舶管理人であるシンガポールのエヌワイケー・シップマネジメント・ピーティーイー・リミテッド(NYK Shipmanagement Pte. Ltd. 以下「船舶管理人」という。)及び災害応答センターに電話で事故状況を伝達した。なお、第3左舷燃料油タンクの温度センサーは、同日午前2時から午前3時30分ころまで、摂氏92度(測深計0.25m)を示したままであった。一方、右舷燃料油タンクの表示計は、摂氏55度であった。
船長は、二等航海士に対し、左舷第3燃料油タンクの燃料油が摂氏92度に達していれば強烈な臭いと蒸気が空気抜きから出てくるはずであるとして、上甲板の空気抜きからの臭いの有無をチェックするように命じた。二等航海士は、同日午前3時20分ころ、左舷、右舷、いずれの燃料油タンクの空気抜きからも燃料油の臭いがない旨を船長に報告した。
(オ)一等航海士は、同日午前3時20分、第3船倉甲板のコーミング及び甲板下通路隔壁の温度を測定したところ、摂氏30ないし40度であった。
船長は、同日午前3時33分、船舶管理人に対し、電話で、発火源を特定していないこと、再発火の危険があること、炭酸ガスの鎮火作用を継続させることが困難である等として、散水が必要であるとの考えを示した。なお、同日午前3時37分におけるベイ22中央付近の左舷側の温度は摂氏56度、ベイ22ないし26の船横方向通路甲板の温度は摂氏69度であった。
(カ)船舶管理入は、同日午前3時50分、船長に対し、スプリンクラー配管系の使用を許可し、スプリンクラー配管系の効果を増大させるため、炭酸ガス系に消火用の海水を接続すべきであるとし、これを受けて船長は、午前3時55分、一等航海士に対し、ハッチカバーのスプリンクラー配管系に海水を接続するよう指示した。同日午前4時、スプリンクラー配管系が作動し、海水の注入が開始された。
船長は、同日午前4時15分、煙が少なくなったとの報告を受けて第3船倉の煙探知機をリセットしたところ、再度警報装置が作動した。
そこで、船長は、同日午前4時30分、機関長に対し、第3船倉の炭酸ガス配管系に消火用水を通すよう指示した。
二等航海士は第3ハッチカバーから濃い煙があることを、一等航海士は第3船倉右舷隔壁の温度が摂氏42度であり、後部右舷隔壁の温度が摂氏46度であること、船横通路甲板の温度が摂氏50度であることを、それぞれ確認した。
一等航海士が、同日午前5時、二等航海士及びイビカ・ポポビツクー等機関士(以下「一等機関士」という。)と共に左舷第3燃料油タンク頂上部の温度を点検したところ、摂氏70度であった。同日午前5時15分ころ、一等機関士らが左右第3燃料油タンクの測深値を点検すると、左舷第3燃料油タンクの測深値は、3.10m、右舷第3燃料油タンクの測深値は2.48mであった。
(キ)船舶管理人は、同日午前6時より前に、船長に対し、炭酸ガスの使用をやめ、スプリンクラー配管系を通じて船底に溜まった海水の深さが4.5mになるまで注水を継続するよう指示した。同日午前6時30分時点の第3船倉周囲の温度は摂氏25ないし32度であり、第3船倉と第4船倉の間の温度は摂氏45度であった。なお、気温は摂氏24度であった。
(ク)船舶管理入は、同日午前7時45分、船長に対し、水深4mでスプリンクラー配管系を停止するよう指示し、船長は、同日午前8時40分、水深4.1mでスプリンクラー配管系を停止するよう命じた。
同日午前9時10分ころの左舷第3燃料油タンクの測深値は、3.01mであった。
同日午前10時には高温部の温度は、摂氏30ないし32度になった。
ウ 本件事故後の状況(甲イ1、甲ハ8、10、21)
(ア)船舶管理入は、同月20日午前10時40分、船長に対し、再発防止のため水深4mを維持するよう指示した。
(イ)同月22日午前2時50分、スプリンクラー配管系を停止するとともに排水を開始し、同日午後3時に排水が完了した。
(ウ)本船は、同月23日午前5時30分、サザンプトン港に到着し、消火安全検査のため、接岸した、サザンプトン港においては、船舶安全検査官(Port Control)が、最初に乗船し、検査を行った。
(エ)ブルゴイネ社は、同日から同月26日までユーケー・ピー・アンド・アイ・クラブを代理するクライド・アンド・カンパニーの指示を受け、本船に乗船し、事故原因の調査を開始した(以下、ブルゴイネ社の事故報告書(甲ハ8)を「ブルゴイネ・レポート」という。)。
ブルゴイネ社は、同月28日から同月30日までロッテルダム港で検査を行い、同日、ハンブルク港の本船上で検査を実施した。
(オ)この他、カニンガム・リンゼイの検査委員は、同月29日午後2時から同月30日まで、調査を行った。さらに、共同海損清算人として選任されたTaylor Marine TR Limtedの共同海損検査員は、同月30日、各調査会社を紹介した。
カニンガム・リンゼイは、同年11月1日、他社と共同で、第3船倉から荷卸しされた本件事故の発生源の疑いがある本件コンテナを検査した。
(カ)ブルゴイネ社のドクター・N・サンダースは、同月4日、ロッテルダム港において本件事故の発生源の疑いがある本件コンテナの検査に立ち会った。
(2)本件事故の原因
本件事故の原因を明確に裏付ける証拠はないが、既に認定した本件事故の発生状況に加えて、(1)カニンガム・レポート及びブルゴイネ・レポートは、いずれも本件事故の発生箇所は、第3船倉の第23区画・第8列・第2層に積み付けられた本件コンテナ内部であると結論付けていること(甲イ3、甲ハ8)、(2)上記2認定のとおり、本件各貨物はいずれも自然発火性物質であり、PSRー80は可燃性物質にも該当する危険物であること、B本件事故発生前から本件コンテナに近接する左舷第3燃料油タンクで燃料油の加熱が継続されていたこと、C本件証拠上、本件コンテナ内には他に出火の原因となる危険物があったことはうかがわれないことを総合考慮すると、本件事故の原因は、本件各貨物(特にNA-125よりも自己加速分解温度が低いPSR-80)が、左舷第3燃料油タンクからの熱を徐々に蓄積し、放熱速度よりも蓄熱速度が上回る状態が継続して、PSR-80の一部が発熱を開始し、そのために本件各貨物の自己加速分解温度を超える状態が一定時間継続し、その結果、本件各貨物が自己分解反応を起こして極めて高温となり、本件各貨物が収納されていたファイバードラム缶や段ボール箱を燃焼させ、本件各貨物とともに発煙したものであると推認するのが相当である。
(3)被告の主張について
ア 被告は、本件事故の原因について、(1)本件事故は左舷第3燃料油タンクの燃料油の加熱ないし過熱の影響により、本件コンテナ内部が長時間高温となり、コンテナ内の前部に積み付けられていたフェルトペンから可燃性ガスが発生して生じた爆発性混気に静電気のスパークが引火し、爆発したか、又は(2)左舷第3燃料油タンク内部の過熱により左舷第3燃料油タンクの外壁が相当長時間摂氏100度を超える異常な高温となった影響を受けて、本件コンテナ内部も摂氏75度以上の高温状態が長時間続き、フェルトペンからの可燃性ガスに起因する爆発及び本件各貨物の自己分解反応による発熱により出火したなどと主張する。
イ しかしながら、東海運及び川西倉庫から提出されたコンテナ内積付表(乙48の1)には、本件コンテナ内にフェルトペンが収納されていたとの記載はなく、フェルトペンから本件事故を発生させるほどの可燃性ガスが漏出したことやフェルトペンから発生した可燃性ガスが本件事故の原因であることをうかがわせる証拠は乏しいというべきであるから、被告の主張は採用することができない。
ウ また、被告は、左舷第3燃料油タンクの空焚きによって本件コンテナが積載されていた第3船倉の第23区画・第8列・第2層が異常な高温となっていたなどと主張する。
しかし、上記認定のとおり、平成16年10月19日午前7時30分、左舷第3燃料油タンクの燃料油の残りは452.0トンあったこと、同月20日午前5時15分ころの左舷第3燃料油タンクの測深値は3.10mであったことからすると、左舷第3燃料油タンクが空であったことをうかがわせる証拠はなく、被告の主張は採用できない。
エ そして、本件証拠上、上記(2)で認定したところ以外に本件事故の原因を合理的に説明し得る事情はうかがわれない。
(4)小括
したがって、本件事故の原因は、本件各貨物(特にPSRー80)が、左舷第3燃料油タンクからの熱を蓄積して発熱を開始し、まずPSR-80の、次にNA−125の自己加速分解温度を超える状態が一定時間継続したために本件各貨物がそれぞれ自己分解反応を開始し、本件ゴンテナ内が極めて高温となって、本件各貨物が収納されていたファイバードラム缶や段ボール箱を燃焼させ、本件各貨物とともに発煙に至ったものと認めるのが相当である。
4 争点3(失火責任法の適用の有無)について
(1)準拠法
本件は、神戸港からオランダのロッテルダムに向けて航海する本船(パナマ船籍)に積載した危険物の荷送人である被告(日本法人)が、その注意義務に違反し、本件各貨物等に危険物であることを示す表示をせず、船長に本件各貨物が危険物であることを告知しなかったため、本件コンテナが甲板上ではなく熱源の近くに積載されてしまい、そのため、地中海を航行中に本件事故が発生し、本船の積荷(その荷受人は、複数の国の法人である。)に損害が生じたとして、原告らが被告に対し、不法行為による損害賠償請求権に基づき、賠償金の支払を求めている訴訟である。
本件の準拠法を決定する上で前提となる単位法律関係は、不法行為であるところ、法の適用に関する通則法の施行日(平成19年1月1日)前に加害行為の結果が発生した不法行為によって生ずる債権の成立及び効力については、なお従前の例によるから(同法附則3条4項)、旧法例11条1項の規定により、原因である事実の発生した地の法律によることとなる。
本件は、被告が我が国内において本件各貨物の運送を委託した際の作為又は不作為の注意義務違反を問うものであるから、その原因である事実の発生地(不法行為地)は、日本に在るというべきである。したがって、本件の準拠法は、日本法である(この点については、当事者間に争いがない。)。そうすると、本件においては、失火責任法の適用の有無が問題になるのである。
(2)失火責任法は、「民法七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セズ但シ失火者二重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限二在ラズ」とするだけであって、規定の文言上、その対象物にも、その対象物が存在する地域についても何ら限定がない。
そうすると、日本法が準拠法とされる限りは、日本の領海の外を航行中の船舶に係る失火についても失火責任法が適用されることになる。
失火責任法が失火者の民事責任を軽減している立法趣旨は、(1)火災は自分の財産をも焼失してしまうのが通常であるから、何人も自己の財物を滅失しないように注意を怠らないのであり、失火の場合には宥恕すべき事情がある場合が少なくないこと、(2)いったん火災が発生したときは、被災物件の状況、消防施設、火災の箇所の道路状況等の理由で火災が拡大し、損害が著しく大きく広範囲になることがあるので、失火者にその全部の損害の賠償責任を負担させることは酷であること、(3)このような事情から、我が国では失火につき民事責任を問わないという慣習があったことなどにあるとされる。そうすると、規定の文言に反して失火責任法の適用範囲を日本国内の、失火に限定する理由はなく、また、船舶を対象物とする失火にも失火責任法は当然に適用されるというべきである。
更に、失火とは、過って火を失し、火力の単純な燃焼作用によって財物を滅失し、又は焼損させることをいうと解すべきであるから、発火又は財物の滅失若しくは損傷そのものが火薬、ガス類等の爆発による場合には、失火責任法の適用がないと解するのが相当である。この点について、NAー125又はPSR-80の自己分解反応が爆発に該当するかどうかを見ると、証拠(甲ロ6)によれば、火薬は国連等級1(危険順位1)とされ、ガス類は国連等級2(危険順位2)とされていると認めることができるのに対し、NA-125は自然発火性物質であるものの、自己発熱性物質に留まり、また、PSR-80は自己反応性物質に該当し、国連等級は4.1(国連等級4.1は可燃性を有することを意味する。)であるものの、可燃性物質に留まるのであって、いずれも、火薬、ガス類等と同等の危険性はないというべきであり、火薬、ガス類等が爆発した場合と同様に本件事故が失火責任法の適用の対象外になるということはできない。
(3)また、証拠(甲イ5)によれば、本件事故後の本件コンテナに裂け目があったことが認められるところ、原告らは、本件各物質は、自己分解反応により、酸素の供給がなくても、多量の窒素ガス、熱を放出して分解するのであって、爆発に該当し、また、酸化現象であって、炎を伴う燃焼には当たらないと主張する。
しかし、証拠(後掲のもの)によれば、次の事実が認められる。
ア PSRー80については、危険1生評価証明書において、「ガスバーナーで着火すると、試料上部に火が着きデュワー瓶より炭化した燃焼残渣が盛り上がってくる。その後激しく瞬間的に分解する。」、「デュワー瓶上部の炭化した燃焼残渣部分で燃焼が続く為、伝播時間は測定不能」(丙ロ9)、「オレンジ色の炎を上げて穏やかに燃焼する」(丙ロ15)と、製品安全データシート(丙ロ13の1)において、「燃焼ガスには、硫黄酸化物、窒素酸化物等が含まれる。」と、MSDSにおいて、「火気、衝撃及び摩擦その他の熱により容易に分解又は燃焼するおそれがある。」(丙ロ13の2ないし4、6、8、10、11)、「燃焼により有毒ガスが発生するおそれがある」(丙ロ13の5ないし12)と記載されている。
イ また、NA-125については、MSDSにおいて、「燃焼により有毒ガスが発生する恐れがある」(丙ロ14の4ないし8)、「自己発熱性があり、火気、衝撃、摩擦その他熱源により分解・燃焼する恐れがある」(丙ロ14の9、10)と記載され、また、危険物運送に関する国連勧告の試験及び化学物質の危険性評価試験結果報告書(丙ロ17)において、着火及び燃焼継続がいずれもありとされている。
(4)これらによれば、本件各貨物は、いずれも発火し、燃焼する性質を有していると認められるというべきであって、原告らも訴状等において本件事故が火災であることを前提とする主張を行ってきたことに照らすと、本件事故は、本件各貨物の燃焼並びにこれに伴う本件各貨物が収納されていたいずれも紙製のファイバードラム缶及び段ボール箱の炎上により生じたものであるとするのが相当であって、原告らの上記主張を採用することはできない。なお、PSR-80については、MSDS(丙ロ7、8、12)で「火気、衝撃、摩擦その他の熱源により分解・爆発する恐れがある。」とされ、一部の危険性評価証明書(丙ロ9)では、早く爆燃を伝播するとされているが、他の危険性評価証明書(丙ロ8、10の1ないし4)では、爆燃及び爆燃をいずれも伝播しないとされている上、上記のとおり、PSR-80については、火薬、ガス類等と同等の危険性はないというべきであるから、本件事故において、失火責任法の適用を否定すべき爆発が生じたというととはできないし、また、火力の単純な燃焼作用がなかったということもできない。
(5)以上によれば、本件事故については、失火責任法の適用があるというべきである。
5 争点4(被告の重過失の有無)について
(1)上記4によれば、被告は、本件事故の発生について重過失がある場合に限って不法行為責任を負うこととなる。
(2)重過失の意義
失火責任法は、失火者の責任を軽減するため、一般不法行為の主観的要件として過失を挙げている民法709条の規定を失火の場合には適用しないこととし、ただ失火者に重大な過失があったときにのみ不法行為上の責任を負うべきことを規定したのであるから、失火者に対し不法行為による損害賠償を請求する者は、失火者に重大な過失があったことを立証しなければならない。そして、ここにいう重大な過失とは、通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見すごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するのが相当である(最高裁昭和32年7月9日第三小法廷判決1前掲)参照)。
これは、船舶安全法の委任を受けた危規則等により危険物の荷送人が一定の義務を負っている場合であっても、同様である。
(3)証拠(乙3、4、16ないし18、37、57、丙ロ12、17、証人中井一寿、証人根津欽一郎)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア (ア)被告は、昭和62年ころ以降、補助参加人ダイトーからNA-125を継続的に購入して海外に輸出していたところ、当初、補助参加人ダイトーは、被告に対し、NA-125について、自ら特段の検査をしないまま、国連番号3226の自己反応性物質に該当するとの情報を提供していた。
(イ)補助参加人ダイトーは、NA-125が国内運送においては消防法上危険物として取り扱われていないのに、輸出については危険物として取り扱われることに疑問を抱き、日本海事検定協会に検査を依頼したところ、日本海事検定協会は、平成15年12月2日、NA-125につき、危規則に定められた自己反応性物質からの除外要件である「50Kgの輸送物におけるSADT値(自己加速分解温度)が75°Cを超える物」に該当するので、自己反応性物質に該当しないと判定した(乙4)。
(ウ)そこで、補助参加人ダイトーは、被告に対して、NA-125は危険物に該当しないと説明した上、NA-125のテクニカルデータ(乙2)、平成15年10月24日付けのNA-125のMSDS(乙3)及び同年12月2日付けの危険性評価証明書(乙4)を交付した。同テクニカルデータ(乙2)には、純度90.0%以上、水分7.0%以下と、熱特性として「熱を加えると、130°Cぐらいから窒素を出し徐々に分解する。」と、指示事項として「多湿、直射日光又は蛍光灯の照射を避け、冷暗所に保管する」とそれぞれ記載され、同MSDS(乙3)には、「日本における危険有害物分類の名称」欄に「分類基準に該当しない」と、「輸送上の情報」の「国連分類」欄及び「国連番号」欄にいずれも「該当しない。」と、そのほか「輸送上の情報」として「容器の破損なきことを確かめること。湿気、転倒、落下、衝突等の乱暴な取り扱いは絶対に避けること。自国の関係法令に従うこと。」と、「安定性及び反応性」の欄に「国際危険物運送における自己反応性物質(国連分類4.1、国連番号3226)ではない。」とそれぞれ記載され、同危険性評価証明書(乙4)には、「成分・組成」の欄に「含有量90.0〜95.0%、水分6.0〜7.0%」と記載されていた。
(エ)これ受けて、被告は、NA-125を非危険物として取り扱ったが、本件事故前、DKSHに対して売ったNA-125合計3万Kgのうち平成15年12月16日から平成16年8月16日までの間に海上輸送された5回分のNAー125(各5000Kg、合計2万5000Kg)は、火災事故等を起こすことなく、安全に輸送された。
(オ)なお、本件事故前に補助参加人ダイトーが被告に交付していたNA―125に関する同年9月10日付け「分析証明書」には、製造番号ごとの数量、内容量、分子量、純度、水分及び製造日が記載されていた。
(カ)被告は、本件事故前、NA-125について、上記(ア)ないし(ウ)及び(オ)以外の情報は入手していなかった。
(キ)NA-125が危険物(自己発熱性物質としての自然発火性物質)に該当することは、カヤテック作成の平成17年12月14日付け「危険物輸送に関する国連勧告の試験及び化学物質の危険性評価試験結果報告書」(丙ロ17)によって初めて判明した。
イ (ア)本件事故前、補助参加人ダイトーは、被告に対して、PSR-80は危険物に該当しないと説明しており、補助参加人ダイトーが、被告に交付したPSR-80の平成16年9月15日付け分析証明書(乙16)には、「保管:遮光し、しっかり閉めた容器で冷暗所に保管」と記載され、PSRー80のテクニカル・データ(乙17)には、熱特性として「熱すると130°Cくらいから徐々に分解し、窒素ガスを発生する」と、指示事項として、多湿、直射日光又は蛍光灯の照射を避け、冷暗所に保管する」と記載され、PSRー80の平成8年のMSDS(乙18)には、「日本における危険有害物分類の名称」欄に「分類基準に該当しない」と、融点は、「130°C(分解点)」と、「輸送上の情報」として「容器の破損なきことを確かめること。湿気、転倒、落下、衝突等の乱暴な取り扱いは絶対に避けること。」とそれぞれ記載され、「国連分類」欄及び「国連番号」欄並びに「自己反応性、爆発性」欄はいずれも空欄とされていたが、他方、「物理的化学的危険性」欄には「火気、衝撃、摩擦、その他熱源により、容易に分解・爆発する恐れがある。」と、「安定性・反応性」欄に「光により分解し、アルカリと反応して品質劣化を起こす恐れがある」とそれぞれ記載されていた。
(イ)被告は、本件事故に至るまでに、PSR-80について、平成14年2月以降海上運送を24回委託したが、その際、火災事故等は1度もなかった。なお、被告は、本件事故前、PSR-80について、上記(ア)以外の情報は入手していなかった。
(4)以上を前提として、被告の重過失の有無について検討すると、被告が、本件事故前、補助参加人ダイトーから得ていた本件各貨物についての情報は、いずれも危険物に該当しないと理解できる内容であり、化学物質を取り扱うとはいえ、化学物質の製造者でなく商社にすぎない被告において、製造者から提供された当該情報を積極的に疑って、その正確性を更に調査すべき義務を負っていたということはできず、さらに、被告が、本件各貨物について、非危険物として、少なくとも5回、海外への無事故の運送実績を有していたことに照らすと、被告が本件各貨物等に危険物である旨の表示をせず、本船の船長にもその旨の情報を告げなかったことについて、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態といえるまでの過失があったとは到底認められないのであって、被告に重過失があったということはできない。
この点、本件証拠上、被告が、PSR-80の運搬方法について、補助参加人ダイトーと電子メールで情報を交換していたことがうかがえるが(甲ロ84、85、乙59)、これは、PSRー80が危険物であることを前提にしたものではなく、PSRー80の品質の劣化を念頭に置いたやりとりであって(証人根津)、上記判断が左右されるものではない。
6 結論
以上の次第で、原告らの請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用(補助参加によって生じた費用を含む。)の負担につき、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第23部
裁判長裁判官 尾 島 明
裁判官 増 永 謙 一 郎
裁判官 河 野 一 郎
(別紙)
原 告 目 録
東京都千代田区丸の内一丁目2番1号
第1事件原告兼第2
事件原告兼第4事件原告
|
東京海上日動火災保険株式会社
|
同代表者代表取締役
|
長友英夫
|
東京都中央区新川二丁目27番2号
第1事件原告兼第2
事件原告兼第4事件原告
|
三井住友海上火災保険株式会社
|
同代表者代表取締役
|
江頭敏明
|
大阪市北区西天満四丁目15番10号
第1事件原告兼第2
事件原告兼第4事件原告
|
ニツセイ同和損害保険株式会社
|
同代表者代表取締役
|
立山一朗
|
東京都新宿区西新宿一丁目26番1号
第1事件原告兼第2事件原告
|
株式会社損害保険ジャパン
|
同代表者代表取締役
|
平野浩志
|
東京都渋谷区恵比寿一丁目28番1号
第1事件原告兼第2事件原告
|
あいおい損害保険株式会社
|
同代表者代表取締役
|
児玉正之
|
大阪市中央区南船場一丁目18番11号
第1事件原告兼第2事件原告
|
富士火災海上保険株式会社
|
同代表者代表取締役
|
ビジャンコスロシャヒ
|
連合王国ロンドン市リーデンホール・ストリート150
第1事件原告兼第2事件原告
|
トーキョー・マリン・ヨーロッパ・
インシュアランス・リミテッド
|
同代表者代表取締役
|
ビジャンコスロシャヒ
|
パナマ共和国パナマ市53番街アーバナイゼーションオバリオスイスタワー16階
第3事件原告
|
エヌワイケー・アルグ
ス・コーポレーション
|
同代表者代表取締役
|
高橋正裕
|
東京都千代田区霞が関三丁目7番3号
第4事件原告
|
日本興亜損害保険株式会社
|
同代表者代表取締役
|
兵頭 誠
|
連合王国ロンドン市ビショップスゲート155 4階
第4事件原告
|
ソンポ・ジャパン・インシュアラ
ンス・カンパニー・オブ
ヨーロッパ・リミテッド
|
同代表者ジェネラ
ル・マネージャー
|
ミツヤ・コダマ
|
スイス連邦バーゼル市アェッシェングラーベン21
第4事件原告
|
バロワー・インシュアランス・
カンパニー・リミテッド
|
同代表者ヴァイス
・プレジデント
|
テオフィル・ハーフナー
|
スウェーデン王国ストックホルム市50エスイーー105
第4事件原告
|
レーンスフォルセークリン
ガー・サック・フォルセーク
リングサックティボラグ
|
同代表者企業保険事業部門長
|
ラーズ・アンダーソン
|
オランダ王国アムステルフェーン市プロフェツサー・バビンクラーン1
第4事件原告
|
フォーティス・コーポレート
インシュアランス・エヌ・ブイ
|
同代表者スペシャリスト・
クレームズ・アジャスター
|
マルセル・ファン・ビースト
|
オランダ王国ハーグ市エイゴンプレイン50
第4事件原告
|
エイゴン・シャーデフェル
ゼーケリング・エヌ・ブイ
|
同代表者代表取締役
|
エス・ダブリュー
・シー・モーリッツ
|
ドイツ連邦共和国ケルン市コロニア・アレー10ー20
第4事件原告
|
アクサ・コーポレート・ソリュ
―ションズ・ニーダーラッサン
ク・ドイッチェラント・デア
・アクサ・コーポレート・ソリュ
―ションズ・アシュアランス
|
同代表者執行役員
|
ハイケ・シュティラー
|
ドイツ連邦共和国マンハイム市アウグスタアンラーゲ66
第4事件原告
|
マンハイマー・フェアズィッ
ヒルング・アクツィ
エンゲゼルシャフト
|
同代表者
|
カールステン・ルーゲ
|
ドイツ連邦共和国ハンブルク市ハイデンカンプスウェグ102
第4事件原告
|
クラバグーロジスティック・
フェアズィッヒルングズー
アクツィエンゲゼルシャフト
|
同代表者
|
ホルスト・クラマー
|
ドイツ連邦共和国ハンブルク市ユーバーセーリング32
第4事件原告
|
ビクトリア・フェアズィッ
ヒルングズ・エイジー
|
同代表者クレー
ムズ・マネージャー
|
アンドレア・ハーペンシュラガー
|
ドイツ連邦共和国ハノーバー市リーソースト2
第4事件原告
|
エイチディーアイーゲーリング
・インドゥストゥリー・フェア
ズィッヒルング・エイジー
|
同代表者取締役
|
カールーゲルハルト・メッツナー
|
ドイツ連邦共和国ハンブルク市アドミラリタツストラス67
第4事件原告
|
コンドア・アルゲマイネ・
フェアズイツヒルングズーア
クツィエンゲゼルシャフト
|
同代表者ヘッド・クラーク
|
ピーター・ジャップ
|
連合王国アックスブリッジ市オックスフォード・ロード ブリッジ・ハウス
第4事件原告
|
ゼロックス・リミテッド
|
同代表者代表取締役
|
エム・アール・フェスタ
|
連合王国ウースター市バッジワース・ドライブ
第4事件原告
|
ヤマザキ・マザック・
ユーケー・リミテッド
|
同代表者マネージ
ング・ディレクター
|
デイビッド・ヒューズ・ジャック
|
以上
(別紙)
原 告 代 理 人 目 録
第1事件原告ら訴訟代理人弁護士 藤 井 郁 也
第1事件原告ら訴訟復代理人弁護士兼第2事件、第4事件及び第5事件原告ら訴訟代理人弁護士
平 田 大 器
同 佐 々 木 有 人
同 冨 田 拓
第3事件原告訴訟代理人弁護士 木 村 宏
同 田 中 庸 介
同 木 村 政 道'
同訴訟復代理人弁護士 近 藤 友 規 子
以上
(別紙)
被 告 等 目 録
東京都港区三田三丁目4番19号
第一ないし第5事件被告 DKSHジャパン株式会社
(旧商号・日本シンベルヘグナー株式会社)
同代表者代表取締役 ヴォルフガング・
シャンツェンバッハ
同訴訟代理人ン弁護士 平 塚 眞
同 山 下 真 一 郎
同訴訟復代理人弁護士 永 井 紀 昭
同 二 瓶 紀 子
同 牧 島 善 幸
同 秋 葉 理 恵
第1ないし第3事件
被告訴訟復代理人弁護士 田 中 佐 知 子
大阪市鶴見区茨田大宮三丁目1番7号
第1ないし第5事件
被告補助参加人 ダイトーケミックス株式会社
同代表者代表取締役 村 瀬 千 弘
同訴訟代理人弁護士 国 谷 史 朗
同 長 澤 哲 也
同 若 林 元 伸
東京都港区芝五丁目10番1号
第1ないし第5事件
被告補助参加人 パナルピナ・ワールド・トラン
スポート・ジャパン株式会社
同代表者代表取締役 アンドレアス・ベンケ
スイス連邦バーゼル市フィアドゥクストラッセ42
第1ないし5事件
被告補助参加人 パンテナー・リミテッド
同代表者取締役会議長 モニカ・リバー・バウマン
上記2名訴訟代理人弁護士 松 井 孝 之
同訴訟復代理人弁護士 黒 澤 謙 一 郎
以上
(別紙)
請 求 目 録
1 第1事件
(主位的請求)
(1) 被告は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、90万4185.10ユーロ、5140万6745円、38万1585.04スイスフラン、14万0O16.62米国ドル及び5647.57スターリング・ポンド並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告株式会社損害保険ジャパンに対し、37万3529.05ユーロ、790万多605円、2万5439.O0スイスフラン及び7万2246.13米国ドル並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払:済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は、原告三井住友海上火災保険株式会社に対し、11万4786.30ユーロ、485万4047円、7万6317.01スイスフラン及び1万4385.38米国ドル並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は、原告あいおい損害保険株式会社に対し、7万9402.67ユーロ、229万5025円、2万5439.00スイスフラン及び4795.13米国ドル並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は、原告ニッセイ同和損害保険株式会社に対し5万1278.05ユーロ及び84万3832円並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告は、原告富士火災海上保険株式会社に対し5312ー30ユーロ及び8万7419円並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告は、原告トーキョー・マリン・ヨーロッパ・インシュアランス・リミテツドに対し21万4905.97ユーロ及び353万6493円並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
(1) 被告は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し2億2651万8920円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告株式会社損害保険ジャパンに対し6960万7603円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は、原告三井住友海上火災保険株式会社に対し2889万4603円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は、原告あいおい損害保険株式会社に対し1594万5209円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は、原告ニツセイ同和損害保険株式会社に対し786万0690円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告は、原告富士火災海上保険株式会社に対し82万7157円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7) 被告は、原告トーキョー・マリン・ヨーロッパ・インシュアランス・リミテッドに対し3297万6461円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 第2事件
(主位的請求)
(1) 被告は、原告三井住友海上火災保険株式会社に対し、2997万4962円、33万0139.75ユーロ及び16万2285.00スウェーデン・クローネ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告富士火災海上保険株式会社に対し、72万o287円及び4万3743.89ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、1213万5804円及び2万5842.80ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は、原告あいおい損害保険株式会社に対し、106万3013円及び1万7146.11ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5) 被告は、原告株式会社損害保険ジャパンに対し、228万1965円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告は、原告ニッセイ同和損害保険株式会社に対し、7万7134円及び4684.42ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
(1) 被告は、原告三井住友海上火災保険株式会社に対し、8733万8046円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告富士火災海上保険株式会社に対し、792万3156円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 被告は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、1639万1079円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4) 被告は、原告あいおい損害保険株式会社に対し、388万6291円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割倉による金員を支払え。
(5) 被告は、原告株式会社損害保険ジャパンに対し、228万1965円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6) 被告は、原告ニッセイ同和損害保険株式会社に対し、84万8470円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3 第3事件
被告は、原告エヌワイケー・アルグス・コーポレーションに対し、2億6734万6750円及びこれに対する平成17年10月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
4 第4事件
(主位的請求)
(1)
被告は、原告日本興亜損害保険株式会社に対し、4856万7390円及び2086.0Oユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)
被告は、原告東京海上日動火災保険株式会社に対し、1236万1691円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)
被告は、原告三井住友海上火災保険株式会社に対し、206万0283円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)
被告は、原告ニッセイ同和損害保険株式会社に対し、206万0283円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)
被告は、原告ソンポ・ジャパン・インシュアランス・カンパニー・オブ・ヨーロツパ・リミテッドに対し、549万7758円及び32万8931.34ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合によう金員を支払え。
(6)
被告は、原告フォーティス・コーポレート・インシュアランス・エヌ・ブイに対し、69万2714円及び4万1445.15ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)
被告は、原告エイゴン・シャーデフェルゼーーケリング・エヌ・ブイに対し、69万2714円及び4万1445.15ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)
被告は、原告トごキョー・マリン・ヨーロッパ・インシュアランス・リミテッドに対し、69万2714円及び4万1445ー15ユーロ並びにこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)
被告は、原告バロワー・インシュアランス・カンパニー・リミテッドに対し、195万2178円及び19万5687.40スイスフラン並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(10) 被告は、原告アクサ・コーポレート・ソリューソンズ・ニーダーラッサンク・ドイッチェラント・デア・アクサ・コーポレート
ソリューションズ・アシュアランスに対し、412万7009円及び24万6919.28ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(11) 被告は、原告マンハイマー・フェアズィッヒルング・アクツィエンゲゼルシャフトに対し、85万9794円及び5万1441.52ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(12) 被告は、原告クラバグーロジステイツク・フェアズィッヒルングズーアクツィエンゲゼルシャフトに対し、85万9794円及び5万1441.52ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(13) 被告は、原告ビクトリア・フェアズィッヒルングズ・エイジーに対し、51万5876円及び3万0864.91ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(14) 圏被告は、原告エイチディーアイーゲーリング・インドゥストゥリー・フェァズィッヒルング・エイジーに対し、34万3917円及び2万0576.60ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(15) 被告は、原告コンドア・アルゲマイネ・フェアズィッヒルングズーアクツィエンゲゼルシャフトに対し、17万1958円及び1万o288.30ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(16) 被告は、原告レーンスフォルセークリンガー・サック・フォルセークリングサックティボラグに対し、106万8564円及び57万7602.00スウェーデシ・クローネ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(17) 被告は、原告ゼロックス・リミテッドに対し、323万1932円及び4万5318.80ユーロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(予備的請求)
(1)
被告は、原告日本興亜損害保除株式会社に対し、4906万6470円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2)
被告は、原告ソンポ・ジャパン・インシュアランス・カンパニー・オブ・一ヨーロッパ・リミテッドに対し、6047万5342円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3)
被告は、原告フオーティス・コーポレート・インシュアランス・エヌ・ブイに対し、761万9856円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(4)
被告は、原告エイゴン・シャーデフェルゼーーケリング・エヌ・ブイに対し、761万98・56円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(5)
被告は、原告トーキョー・マリン・ヨーーロッパ・インシュアランス・リミテッドに対し、761万9856円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(6)
被告は、原告バロワー・インシュアランス・カンパニー・リミテッドに対し、2147万3953円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(7)
被告は、原告アクサ・コーポレート・ソリューソンズ・ニーダーラッサンクボドイッチェラント・デーア・アクサ・コーポレート・ソリューションズ・アシュアランスに対し、4539万7097円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(8)
被告は、原告マンハイマー・フェアズィッヒルング・アクツィエンゲゼルシャフトに対し、945万7730円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(9)
被告は、原告クラバグーロジステイツク・フェアズィジヒルングズーアクツィエンゲゼルシャフトに対し、945万7730円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(10) 被告は、原告ビクトリア・フェアズィッヒルングズ・エイジーに対し、567万4637円政びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(11) 被告は、原告エイチディーアイーゲーリング・インドゥストゥリー一・フェアズィッヒルング・エイジーに対し、378万3090円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(12) 被告は、原告ゴンドア・アルゲマイネ・フェアズィッヒルングズーアクツィエンゲゼルシャフトに対し、189万1544円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(13) 被告は、原告レーンスフォルセークリンガー・サック・フォルセークリングサックティボラグに対し、1175万4201円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(14) 被告は、原告ゼロツクス・リミテッドに対し、1080万6516円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 第5事件
(主位的請求)
被告は、原告ヤマザキ・マザック・ユーケー・リミテッドに対し、1324万6698円及び82万8281ユー一ロ並びにこれらに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。(予備的請求)
被告は、原告ヤマザキ・マザック.ユーケー・リミテッドに対し、1億4571万3678円及びこれに対する平成16年10月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
以上